2019 年 16 巻 p. 157-178
日本では母子世帯の貧困の問題に対して利用可能な社会保障制度として,児
童扶養手当や死別の場合の遺族年金のほか,生活保護制度があるが,母子世帯
の貧困率の高さに比べ生活保護の受給率はきわめて低い.先行研究では,貧困
であるにもかかわらず,生活保護を受給していない世帯が存在することが示唆
されてきたが,受給を抑制する要因を計量的に分析した研究はほとんど存在し
ない.
本稿では,全国の中学3 年生及びその保護者を対象とした,内閣府による「親
と子の生活意識に関する調査」を用い,母子世帯の生活保護の受給状況とその
規定要因の検討を行った.分析の結果,相対的貧困層であるにもかかわらず生
活保護を受給していないケースが多く存在した.相対的貧困層の母子世帯(貧
困母子世帯)では,母親が高卒以上,就労している場合に加え,内的統制傾向
が強い,すなわち物事の結果は自身の行動に起因し,自分の努力や行動次第で
あると考える人ほど,生活保護を受給していない傾向が示された.貧困母子世
帯における内的統制傾向の強さと生活保護の非受給との関連から考えると,「自
立や自助」に高い価値を置き,生活保護の受給を控えている可能性が示唆され
る.母子世帯において,貧困であるにもかかわらず生活保護を受けないことが
貧困を持続させうるという点では,生活保護を受給しつつ長期的な「自立」を
めざすことが現実的かつ子どもの貧困の問題に対しても有効であると考えられる.