本稿では,状態としてのひきこもりを伴いつつも,必ずしもひきこもりと同定されないひきこもり傾向概念の使用法の分析を行う.そして,最終的に,ひきこもり現象に立ち返り,どのようにして多様化するそれを対象化すべきか明らかにすることを目的とする. 本稿は分析方法として,エスノメソドロジーに基づいた概念分析を用いた.ここで,概念分析とは,カテゴリカルな概念が,行為者によっていかにして参照され,実践的(戦略的)に用いられているかにかんする記述・分析の方針である.また,本稿の主な対象は,『読売新聞』と『朝日新聞』における記事である.それらとは別に,専門家や当事者による記述や発信もまた参照した. 結果として,次の 3 点が見出された.①ひきこもり傾向とその理由の説明は不可分であること.②「迷惑をかけないためにひきこもり傾向に至る」(論理 A),「ひきこもり傾向にあることで,他者や社会に迷惑をかけている」(論理 B)という両義的側面.③論理 A が前景化することで,論理 B が隠蔽されるという二重の排除図式(排除の曖昧化). 以上より,特に論理 A は,社会的孤立にかんする言説と不可分であるため,ひきこもり現象は社会的孤立として扱われるべきではない.むしろ,ひきこもりというカテゴリー内部の差異の記述を徹底すべきである.