2023 年 20 巻 p. 215-236
本稿の目的は,離家はヤングケアラーにとってどのような意味を持つかを明らかにすることである.若者の離家については,家族社会学の分野で研究が蓄積されてきたが,こうした調査において,ヤングケアラーや若者ケアラーのようなケアを担う若者の存在は充分に想定されてこなかった.そこで,本稿では,実家を離れた元ヤングケアラー4 名に対するインタビュー調査を行い,ヤングケアラーの離家経験を分析した. 分析の結果から,家を出た後も家族のケアを続けている,あるいは,ケアを続けてはいないものの,そのことに対して罪悪感や不安などを抱えているヤングケアラーの状況が明らかになった.こうした分析結果を踏まえ,本稿では,離家という経験がヤングケアラーにもたらすのは,ケア負担の消滅ではなく,物理的距離の確保による「ケアの切り分け」と「ケアを要する家族のニーズ」との距離への気づきであることを論じた.ヤングケアラーにとって離家は,それまでの経験を整理し,自分と家族について相対化し考えていくために重要な行為となっていた.以上から,効果的なヤングケアラー支援を考えていく際には,ケア負担の軽減に加え,ヤングケアラーたちの離家を後押しする仕組み作りが重要になると主張した.