当事者の声は個別救済のためだけにあるのではなく,一般社会の価値観が人びとにとって意味あるものになるためにとても貴重だ.本稿では「声を聞く」営みを考えるため,フーコーを導きの糸に声がつくられる「主体」に着目した. 「声を聞く」行為には権力関係が潜み,主体が置かれる状況により発する声は変化する.聞き手が体制から自由であり,精神の解放に意識的である点は重要である.筆者の公的第三者機関での経験から,声を聞くシステムにおける行政のあり方についても整理した. 「声を聞く」支援が前面に出ているが,重要なのは主体がいかに形成されているかであろう.本稿の中心となる主体形成のメカニズムを知るために,沖縄戦後史における政治的はたらきかけを事例に,私たちの発する声は個人の勤勉な努力という資本主義的心性の影響下にあると確認した. 英国の貴重な調査から,当事者の声は,生活世界を襲った困難をめぐり発せられており,社会や文化そのものを変えないことには,事態は悪くなる一方であり,私たちが正常と考える社会や文化の仕組みが,当事者の困難の発生源になっている. 主体の中で複雑に入り組んだ戦略的状況がある.私たちは,主体の中の抵抗領域を徐々にあけ渡してきた.声(主体)は社会的な状況によりつくられ、封じられもする.現状を問うのは,声を聞く/発する主体である.同時に,現状を支えてしまうのもまた声を聞く/発する主体である.