福祉社会学研究
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特集 介護労働のグローバル化と介護の社会化
東アジアにおけるケアの「家族化政策」と外国人家事労働者
安里 和晃
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2009 年 6 巻 p. 10-25

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抄録

アジア的な福祉政策といわれる家族ケアの活用は,残余的な福祉サービスの供給体制,性役割分業の維持,女性の労働力率の上昇や家族構成の変化によって困難を抱えているが,シンガポール,香港,台湾では,外国人家事労働者が家族ケアの重要な担い手となっている,台湾の例では「重度」以上の要介護者の半数以上が,外国人家事労働者によってケアを受けているーこれらの地域は高齢化率が10%に達した段階だが,残余的な福祉サービスと家庭内のインフォーマルケアを活用しようとしている点で共通している.

家族によるケア供給の活用は,政府による各種の補助金制度や税の優遇制度,老親扶養の法制化,外国人家事労働の雇用許可,モラル教育といった「家族化政策」を通して支えられ,家族の福祉機能を維持・強化しようとしている.外国人家事労働者の導入は市場メカニズムを通じたサービスの供給形態の一つであり,国際労働市場を形成させ,女性の階層化を伴いながら性役割分業を固定化し,経済政策と福祉政策の見えない基礎となっている.

ところが家事労働者のフレキシブルな労働力は,労働法令非適用と引き換えに成立していること,ニーズ、に合った人材育成がなく社会的地位が低いといった問題を抱えている目さらに「家族化政策」は家族形成を前提としてケアが確保されるものであり,単身者や結婚を選択しない者は,外国人家事労働者を雇用しない傾向にあることからケア確保の問題を解決することはできない, といった問題点を抱えている.

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© 2009 福祉社会学会
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