2009 年 6 巻 p. 82-102
本稿の目的は介護をコミュニケーション過程としてとらえ,そこでいか
なる現実がかたちづくられているかを明らかにすることである. とくに
介護者と被介護者の関係の非対称性に注目し従来の介護論とは別様の視
点から,介護コミュニケーションのよりゆたかな相を記述する.
これまで,介護における関係の非対称性は解消するべきものと考えられ
てきたというのは,非対称な関係性がパターナリズムを生み,被介護者
を抑圧する状況を発生させることが危倶されてきたからである.介護に配
慮は必要である一方,行き過ぎた配慮は介護者,被介護者双方に閉塞をも
たらすと考えられたそれゆえ,非対称な関係を解消するために“対等な
関係"の構築が理論的にも実践的にも模索されてきた.
こうした認識と主張は事実を適切に把握しており妥当なものである.
しかし,筆者が行っている参与観察による事実を参照すると,実際の介護現
場ではこれとは異なる現実が見られた.配慮の諸相を観察してみても,そ
こには多様なあり方が存在していたーむしろ,関係が非対称であるからこ
そコミュニケーションが生成していく事態が確認された.たとえば,遊び
のコミュニケーションや非対称性に直面することで生じる自己変容がそれ
である以上の議論から,介護の社会学的研究は関係を対等モデルに閉じ
込めるのではなく,コミュニケーションが生成・反転・破局していく姿を
繊細にとらえていくことが重要であると指摘する.