2011 年 8 巻 p. 105-126
本稿の目的は,介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)に勤務する介
護職員に対するインタビュー調査にもとづき,職務の「専門性」の認識と
評価の認識の詳細を明らかにすることにある. 現在でも介護職の職場環境
は厳しいにもかかわらず,専門性の向上への要求はますます高まりをみせ
ている.だが,専門性を高めていく主体である当事者の意識については,
これまでほとんど等閑視されてきたといわざるを得ない.
本稿の調査では, 日常的ケアのスキルを磨くことや利用者の内面を深く
理解すること(の他に),ケアの感情労働の側面に「専門性」 を見出して
いることが明らかになった.「専門性」についての認識を成り立たせるロ
ジックは,利用者からの評価・承認がなされていること,社会一般が承認
する専門職のイメージに適合的であること,同僚からの能力に対する承認
などであった.これらは,ケア労働の細分化の進展や市場論理の導入,要
介護高齢者がもっ家族への期待の不充足など,近年の施設環境を取り巻く
さまざまな困難を背景として意味づけられたものと言える.町市場の合理性
は, 業務の細分化のみならず,専門職を成り立たせるための合理的な仕組
みの整備も同時に進めるが, このことが不適切な形で負荷され,ケアが単
なる肉体労働になることで, 施設入居者とケアの担い手双方の生活の多く
の部分が失われる可能性があるのかもしれない.