福祉社会学研究
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シティズンシップの変容と福祉社会の構想
亀山 俊朗
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2006 年 2006 巻 3 号 p. 85-104

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抄録

福祉にかかわる権利を問題にする際日本では人権という語が用いられることが多いが,福祉国家の変容や福祉社会の構想を論ずるには,普遍的な人権概念だけでなく,特定の成員にかかわるシティズンシップに焦点をあてる必要がある.自由主義的シティズンシップの代表的論者であるT. H.マーシャルは,福祉国家における社会的権利の平等の進展が,資本主義的な不平等を無意味化していくと考えた.それに対して,ポストモダン化とグローバル化を重視する立場の論者は,国民国家に結びつけられていたシティズンシップの境界が多様化することを指摘し,自由主義的シティズンシップは国民国家のみを枠組にしていると批判する.しかし,マーシャルは過去の歴史において国民国家以外のシティズンシップの境界が存在していたこと,また,市民的権利と社会的権利の葛藤がみられたことを指摘しており,その議論には今日的な意義がある.市民共和主義的な立場の論者は,自由主義的シティズンシップは権利を過度に重視し,市民の能動的な参加の機会を奪っていると批判する。そうした批判をふまえシティズンシップ概念は社会的権利の平等から参加の保証へと焦点を移しつつある.しかしそのことによって自由主義的シティズンシップが持っていた平等概念としてのインパクトが損なわれる可能性も指摘しうる.シティズンシップはその概念構成,さらには権利概念としての妥当性を問われている.

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