抄録
ここ数年来, 山階鳥類研究所ではミトコンドリア・ゲノム・プロジェクトを推進してきた。これは日本に生息する絶滅危惧種鳥類のミトコンドリアゲノム全塩基配列を決定するためのものである。山階鳥類研究所に保存収集されている標本や試料を用いることでこのプロジェクトは実現可能となった。ミトコンドリアゲノム全塩基配列を決定しておけば, 将来その配列を用いて集団内での遺伝的多様性を解析でき, 保護や保全に必要な方策を探ることも可能になる。その第一段として, ウミスズメAncient Murrelet (Synthliboramphus antiquus) のミトコンドリア全塩基配列16,730bpの決定について報告する。ウミスズメはチドリ目ウミスズメ科に属する小型の海鳥で, 2002年に発表された環境省日本版レッドデータブックによれば絶滅危惧IA類“CR (Critically Endangered)” に分類されている。ウミスズメのミトコンドリアゲノムは猛禽類を除く鳥類に一般的な構造を有しており, 2個のrRNA遺伝子と13個のタンパク質遺伝子と22個のtRNA遺伝子が同定された。コントロール領域は3つのドメインで構成され, その中に他の鳥類に共通のコンセンサス配列が存在した。12S-rRNA遺伝子配列を用いた系統解析では, ウミスズメ科に属する他の7種と比較したところ, 従来の分類法と一致する結果が得られた。これはミトコンドリアの他の遺伝子配列を用いた系統解析の結果の報告とよく一致している。今後も引き続き, このプロジェクトで決定した他の絶滅危惧種鳥類のミトコンドリア全塩基配列についても同様の形式で報告していく予定である。