糸状菌は複雑に分化した形態をもつ比較的大きな微生物であり,柔軟な環境適応能力と高い物質生産能をもっている.その遺伝子数は微生物で最大級であるが,ゲノムサイズは酵母の2~3倍程度と比較的小さく,高等動植物に見られるような極端な繰り返し配列が存在しない.したがって,ゲノム解析に適した生物であるといえる.糸状菌のゲノム決定と解析はここ10年くらいの間にめざましい進展を遂げ,ゲノム科学を駆使した学術・産業の両面からの研究が広く展開されている.ここでは糸状菌ゲノム情報を活用した幅広い研究分野について,現状と今後の可能性について紹介する.