2008 年 46 巻 12 号 p. 832-840
近年の人類の長寿化において放射線治療やX線診断など,放射線を用いた医療診断技術の発達が計り知れない貢献をしていることは言うまでもない.一方で,放射線は生物に対して様々な影響を及ぼすことが知られている.特に我が国では,世界で唯一の原爆被爆国である特異性から,ともすると放射線に対して不合理な恐怖心をもつ傾向があることが否めない.放射線の恩恵を享受するためには,その生物影響について正確な知識を社会で共有することが重要な課題となる.ここでは,放射線のリスク評価と放射線防護の観点から生物学的・疫学的な研究の現状と問題点を概説する.