2009 年 47 巻 9 号 p. 644-650
病原糸状菌はその生活史において様々な環境ストレスに曝される.具体的には,水分活性(浸透圧)ストレスや宿主の抵抗性反応による酸化ストレスなどが挙げられる.病原糸状菌はこのようなストレスを感知し,それに応答するための情報伝達システムや適応メカニズムを有している.これらのうち,浸透圧応答シグナル伝達系が重要な農薬(殺菌剤)であるジカルボキシイミド系やフェニルピロール系剤の作用機構と深く関わっていることが明らかとなり,本シグナル伝達系が新規殺菌剤のターゲットとしても注目されつつある.さらには浸透圧応答シグナル伝達系が病原性などに関与する例も見いだされている.今回は,我が国の研究者が中心となって明らかにしてきた病原糸状菌の浸透圧応答シグナル伝達系に関する知見を紹介したい.