2011 年 49 巻 8 号 p. 542-548
作物を遺伝的に改良し,新しい品種を生み出す育種は,これまでは育種家の経験と勘を頼りに行なわれてきた.ところが,植物の遺伝子レベルでの解析が進むにつれて「DNAマーカー育種」という概念が誕生し,従来の育種を論理的な育種に変える画期的な手法として期待され,全塩基配列の解読されたイネをはじめとした主要作物を中心に精力的に研究が進められている.一方,花きは品目数が多く,一つあたりの生産規模も小さいことから,そうした技術開発は世界的にも進んでいなかった.ここでは,カーネーション萎凋細菌病抵抗性育種において,抵抗性に連鎖したDNAマーカーを開発し,野生種由来の抵抗性を導入した新品種‘花恋(かれん)ルージュ’を育成した経緯を中心に,花きにおけるDNAマーカー・ゲノム研究の現状を紹介する.