2013 年 51 巻 5 号 p. 310-317
自由に生息場所を移動できない植物は,外敵から身を守るためにさまざまな化学物質を生産しその侵略に対抗する.これらの化学物質のなかには病虫害などに対する防御物質として知られているものも存在しているが,それらの生合成を担う遺伝子はそのほかの代謝産物の生合成遺伝子と同様に,ゲノム中に散らばって存在していると考えられてきた.しかし,近年,ある種の防御物質生産に関与する一連の生合成遺伝子がゲノム中において集中して存在し,遺伝子クラスターを形成していることが報告された.さらに,その存在は複数の植物種において見いだされていることから,生合成遺伝子のクラスター化は植物のゲノム構造における特徴の一つとして理解され始めている.本稿では,植物の遺伝子クラスターの最新の知見について述べるとともに,われわれが現在進めているイネの生合成遺伝子クラスターの転写制御機構の研究成果について解説する.