2019 年 57 巻 12 号 p. 728-735
鉄は必須元素の一つであるが,過剰の鉄は毒性を示すため,鉄の吸収・輸送にかかわる遺伝子の発現は細胞内の鉄濃度に応じて厳密に制御されている.本稿では,まずバクテリア,動物,真菌における鉄の吸収と認識について概説したのち,これらの生物とは異なり正体が明らかにされていない植物の鉄センサー分子の候補に関する知見を紹介する.次に,イネにおける鉄欠乏応答の遺伝子発現制御ネットワークについて概説する.これらの知見を応用することにより,鉄を吸収しにくい石灰質土壌においても良好に生育するイネ,種子に鉄や亜鉛を多く含むイネが多数開発されているので,本稿の締めくくりとしてこれらの応用例を整理して概説する.