2022 年 60 巻 11 号 p. 560-564
下部尿路は膀胱と尿道から構成される.下部尿路の主としての機能は,尿を体外へ排出する排尿機能と尿を貯める蓄尿機能である.蓄尿時には膀胱体部は弛緩し,出口部である膀胱頸部と尿道は収縮する(図1).一方,排尿時には膀胱体部は収縮し,膀胱頸部と尿道は弛緩する.このダイナミックな動きには,末梢神経や中枢神経による機能制御が関わっている(1).さらに神経伝達物質としてはアドレナリン,アセチルコリン,アデノシン三リン酸(ATP),そして一酸化窒素(NO)が各部位でそれぞれ重要な役割を担っている(1).いずれの神経伝達物質も下部尿路機能のコントロールにおいて重要な役割を果たしており,これらの神経伝達物質による制御が何らかの原因で障害されると様々な下部尿路機能症状をきたすこととなる(1).神経伝達物質のなかでもNOは,血管拡張作用を有する物質としてIgnarroらによって発見された物質である(2).NOはL-アルギニンがL-シトルリンに変換される際,NO合成酵素(NO synthase, NOS)によって産生される(3).NOSには3種類のアイソフォームが存在し,恒常的に発現している内皮型NOS(eNOS)と神経型NOS(nNOS),炎症により誘導される誘導型NOS(iNOS)に分類される.最近では,このNOが,膀胱の知覚神経の興奮抑制や膀胱頸部,尿道の弛緩に関わることが報告されている.一方で,iNOS由来のNOは活性酸素種を産生することで毒性を示すとも言われている.下部尿路機能とNOの関係については未だ謎が多いものの,10年前と比べて随分とその知見が増えてきた.本稿では下部尿路機能におけるNOの生理的な役割と治療の可能性について最近の話題を紹介させていただく.