化学と生物
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60 巻, 11 号
選択された号の論文の12件中1~12を表示しています
巻頭言
今日の話題
解説
  • 下部尿路と一酸化窒素
    堀田 祐志, 海老原 大希, 川田 龍哉, 片岡 智哉
    2022 年 60 巻 11 号 p. 560-564
    発行日: 2022/11/01
    公開日: 2023/11/01
    ジャーナル フリー

    下部尿路は膀胱と尿道から構成される.下部尿路の主としての機能は,尿を体外へ排出する排尿機能と尿を貯める蓄尿機能である.蓄尿時には膀胱体部は弛緩し,出口部である膀胱頸部と尿道は収縮する(図1).一方,排尿時には膀胱体部は収縮し,膀胱頸部と尿道は弛緩する.このダイナミックな動きには,末梢神経や中枢神経による機能制御が関わっている(1).さらに神経伝達物質としてはアドレナリン,アセチルコリン,アデノシン三リン酸(ATP),そして一酸化窒素(NO)が各部位でそれぞれ重要な役割を担っている(1).いずれの神経伝達物質も下部尿路機能のコントロールにおいて重要な役割を果たしており,これらの神経伝達物質による制御が何らかの原因で障害されると様々な下部尿路機能症状をきたすこととなる(1).神経伝達物質のなかでもNOは,血管拡張作用を有する物質としてIgnarroらによって発見された物質である(2).NOはL-アルギニンがL-シトルリンに変換される際,NO合成酵素(NO synthase, NOS)によって産生される(3).NOSには3種類のアイソフォームが存在し,恒常的に発現している内皮型NOS(eNOS)と神経型NOS(nNOS),炎症により誘導される誘導型NOS(iNOS)に分類される.最近では,このNOが,膀胱の知覚神経の興奮抑制や膀胱頸部,尿道の弛緩に関わることが報告されている.一方で,iNOS由来のNOは活性酸素種を産生することで毒性を示すとも言われている.下部尿路機能とNOの関係については未だ謎が多いものの,10年前と比べて随分とその知見が増えてきた.本稿では下部尿路機能におけるNOの生理的な役割と治療の可能性について最近の話題を紹介させていただく.

  • リグニンの量と構造の改変
    梅澤 俊明
    2022 年 60 巻 11 号 p. 565-572
    発行日: 2022/11/01
    公開日: 2023/11/01
    ジャーナル フリー

    バイオマス資源の内,最も蓄積量の多いリグノセルロース(木質)からの工業原材料生産や石炭代替ペレット燃料生産に関する必要性と関心が近年世界的に頓に高まっている.リグノセルロース多糖成分の利用技術開発は既に相当進展しているが,リグニンの大規模利用は,主にその構造の複雑さと単離の難しさに起因して長きに亘り停滞してきた.一方,リグニンは多糖の1.4倍程度の発熱量を有する.そこで,筆者らは高バイオマス生産性の大型イネ科植物のモデルとしてイネを用い,積極的にリグニン増量を図る研究及びリグニンの構造単純化に関する研究を進めた.

  • 新たなプログラム細胞死フェロトーシスのメカニズム
    有澤 琴子, 斎藤 芳郎
    2022 年 60 巻 11 号 p. 573-580
    発行日: 2022/11/01
    公開日: 2023/11/01
    ジャーナル フリー

    フェロトーシスは近年見いだされた制御された細胞死形態である.脂質酸化に起因する細胞毒性は長年研究されてきたが,細胞は二価鉄(Fe2+)を産生し,フェントン反応や連鎖的な脂質酸化反応を惹起して細胞死を誘導することが明らかになった.また,これまでにも議論されてきたビタミンEやセレンの抗酸化作用・細胞保護効果が,フェロトーシスの制御にも深く関与している.温故知新ともいえるが,過去に蓄積された知見に新たな研究手法を組み合わせて新規概念として確立したフェロトーシスの研究は急速に発展している.本解説では,フェロトーシスの分子機構とビタミンE・セレンによる抑制について,最新の研究動向や疾患との関連も交えて解説する.

  • 機能性表示食品の科学的根拠とは
    小堀 真珠子
    2022 年 60 巻 11 号 p. 581-586
    発行日: 2022/11/01
    公開日: 2023/11/01
    ジャーナル フリー

    2015年に開始された機能性表示食品制度により,農林水産物等の生鮮食品にも健康の維持,増進に役立つことが期待できるという,様々な機能性を表示することができるようになった.機能性表示食品は,事業者の責任で科学的根拠に基づいた機能性を商品パッケージに表示した食品である.一般的な加工食品とは異なり,野菜,果物,きのこ等,農林水産物の1つずつに含まれる成分の量はそれぞれで異なること等から,当初,生鮮食品の機能性表示食品の件数は伸びなかったが,現在は徐々に市場を形成しつつある.筆者らは,大学,公設試,企業,生産者団体等と連携して農産物等の機能性表示の拡大を目指した研究を行っており,ここでは,研究のポイントと,比較的最近,機能性表示の届出を行った,または届出準備が整った研究事例を紹介したい.

  • メチルキサンチン類の新規作用
    三谷 塁一
    2022 年 60 巻 11 号 p. 587-594
    発行日: 2022/11/01
    公開日: 2023/11/01
    ジャーナル フリー

    食品には栄養的機能,嗜好的機能,生体調節機能の3つの機能が存在し,中でも生体調節機能は健康や疾病との関わりが深いことから,研究者だけでなく一般消費者にも広く注目されている.しかしながら,食品に含まれる成分がどのような生体分子と相互作用することで,機能を発現しているのかが不明な場合が多く存在する.筆者は,食品成分の標的分子として特に標的タンパク質の同定を介してその機能性発現メカニズムを解明することに取り組んでいる.本解説では,食品の中でも嗜好品に多く含まれているメチルキサンチン類を主題として,その標的タンパク質を介した肥満およびその関連症状の改善効果について紹介する.

セミナー室
農芸化学@High School
  • なぜ三倍もの時間をかけるのか
    織間 唯衣, 中嶋 亜実, 石井 結理, 柚木 虹, 早川 日菜, 福原 愛美, 粕谷 瑚々奈
    2022 年 60 巻 11 号 p. 611-615
    発行日: 2022/11/01
    公開日: 2023/11/01
    ジャーナル フリー

    一年で収穫ができるものを三年かけて収穫する「三年子らっきょう」は,一年のものと比べて繊維が細かく巻きがしっかりしており,歯切れ,味,香りも良いことから,高値で取引されている.しかし,一年で収穫したものと三年で収穫したものとの科学的な差異は証明されていない.本研究ではこれら二種のらっきょうの成分,味,歯ごたえ・食感,香りの差異を検証した.その結果,三年子らっきょうは一年らっきょうと比べて食物繊維が多く含まれ,歯ごたえがしっかりしているとともに,甘味および旨味成分の含有量が多く,雑味が少ない点やらっきょう特有の香りが強いことが明らかとなった.

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