2018 年 74 巻 2 号 p. I_505-I_510
本研究では,東日本大震災で被災した東北地方を事例にして,質問紙調査を用いて,震災発生前の時点における,過去に発生した津波に対する住民の認識を県・市・地域単位の比較・評価を行った.その結果は次の通りである.1)震災発生と同時に「過去にこの場所に大きな津波があるという話」を想起した人は,宮城県や福島県に比べて岩手県で最も多かった.2)震災発生以前に明治三陸地震津波と昭和三陸地震津波を「知っていた」住民は,気仙沼市よりも陸前高田市の方が多く,隣接するリアス式海岸地域であっても津波伝承の認識の程度が異なっていた.3)行政の取り組みや高地移転とその後の被害の有無が津波伝承に影響していた.4)家庭での口承は3世代2親等が限界であり,100年以上前の津波については,口承よりもマスメディアから情報を得ていた.