2020 年 61 巻 p. 51-66
地方自治体による財務書類の作成は,特に2006年の「新地方公会計制度研究会報告書」で,複数の財務書類の作成基準が示され,同年8月には,「地方公共団体における行政改革の更なる推進のための指針」(総務事務次官通知)により,これらの作成基準を活用した財務書類の作成が要請されたことで加速した。しかしながら,これまで地方公会計の整備が本来の目的である,「公的部門の効率化・スリム化」に資したのか,定量的に示した研究は,ほとんど存在しない。そこで本稿では,この地方公会計の整備が地方自治体の歳出変化とどのような関係があるのかということについて,2009年度から2015年度の自治体別パネルデータを用いた計量分析によって明らかにした。実証分析の結果から,財務書類の作成は,「自治体政府の大きさ」としての1人当たり基礎的歳出変化率に対してマイナスに有意となっていること,個別の費目でみると,1人当たり物件費変化率,1人当たり普通建設事業費などに対してマイナスに有意となっていることが示された。この結果は,財務書類の整備と「自治体政府の大きさ」としての基礎的歳出,また物件費や投資的経費の伸びの抑制が関係している可能性を示唆するものと言える。また,自治体が採用した財務書類の作成基準による違いを考慮した分析では,主に,総務省方式改訂モデルと旧総務省方式が歳出抑制と関係していることが明らかとなった。