会計検査研究
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会計検査研究
地方自治体の公共調達における品質と価格との関係
西川 雅史
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2024 年 69 巻 p. 13-33

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抄録

 公共調達では,できるかぎり良質かつ安価に財を調達することが求められる。しかしながら,2000年代の日本政府は,品質を維持するためには価格を高くする必要があるとの立場から,落札価格が高くなるような制度改正を繰り返し行ってきた。公共調達の価格引き上げは,国民の租税負担の増加に直結するものであるから,安易に実施されるべきものとはいえない。OECDの統計によれば,日本の公共調達の対GDP比の値は2010年代を通じて約16%であるので,日本のGDPを550兆円と仮定し,政府の介入によって公共調達の落札価格が3%上昇する場合を考えてみると,調達額すなわち租税負担額の上昇額は約2.6兆円にもなる。また,そもそも,高価格によって高品質を導き得るという見立ては,検証されるべき未確定な仮説として残されている。わが国の公共調達における価格と品質とのトレードオフ関係を考察した実証分析は,Hatsumi and Ishii (2022, Japan & The World Economy 62)があるとはいえ,僅少なのである。

 本稿では,2011年4月から2015年9月までの相模原市の公共工事に関するデータを用いて,落札率(価格)と工事成績評定(品質)とについて定量的な分析を行った。そこでは,競争市場であれば当然に見込まれる「高品質の財は高価格である」という関係性が成立していないことが示される。単純に落札価格を引き上げても品質向上には寄与しないのである。その上で,発展的な考察を行い,指名競争入札に代わって一般競争入札を使用すれば,品質を維持しつつ価格を2.5%程度引き下げることができることを示す。また,過去の工事成績評定の良い企業へ発注するならば,価格水準を維持しつつ,工事成績評定を顕著に向上させることができることも明らかにする。

 公共調達で犠牲となった価格上昇や品質劣化などのステルスな負担増を納税者が認知することは難しい。研究者には,こうしたステルスな負担増を測定し,その情報を提供することが期待されていよう。

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© 2024 本論文著者
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