会計検査研究
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地方公会計における統一的な基準の導入と開示時点の変容-地方公共団体への質問紙調査による実証分析-
原口 健太郎丹波 靖博芳司 真綾
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2024 年 69 巻 p. 35-58

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抄録

 2015年に発出された総務大臣通知に基づく統一的な基準の導入により,わが国の地方公共団体における公会計財務諸表の正確性・比較可能性は大きく向上したとされる。もしも,統一的な基準導入に基づき,公会計情報が利害関係者にとってより有用なものとなったとしたら,利害関係者は,公会計財務諸表作成部局に対し,より早期の開示を要請するであろう。これに伴い,地方公共団体には当該要請に応えようとするインセンティブ(早期開示のベネフィット)が生じ,導入前よりも公会計財務諸表を早期に開示しようとするはずである。

 本稿の目的は,上記議論に基づき,わが国の主要な地方公共団体がいつ公会計財務諸表を公表しているかを質問紙調査により把握し,統一的な基準の導入等により開示時点がどのように変容したかを実証的に分析することにより,統一的な基準の導入が公会計情報の有用性に与える影響について新たな知見を獲得することである。

 質問紙調査の結果に基づき,開示日と期末日との間の日数を被説明変数として重回帰分析を行った結果,次のことが明らかになった。第一に,統一的な基準導入以降,地方公共団体の公会計情報開示時点は有意に40日程度遅くなる。第二に,統一的な基準導入前に改訂モデルを利用していた団体の上記遅延はさらに顕著となる。第三に,統一的な基準導入後数年を経てもなお,導入に伴う遅延は少なくとも有意には解消されない。さらに,統一的な基準の導入前後を問わず,わが国の公会計財務諸表が,総務省がガイドラインで推奨する開示期間(期末日翌年度の9月末まで)に開示されている例は極めて少なく(約4.8%),開示時点は総務省の期待水準と大きく乖離している。

 本稿は,開示時点の分析を通じて,統一的な基準の導入と公会計財務諸表の早期開示との関連性の知見を明らかにするとともに,地方公会計全般にわたる重要な問題を提起するものである。

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© 2024 本論文著者
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