2008 年 17 巻 3 号 p. 193-204
黒潮が直進路を取り, 潮岬に接する形で流れるとき, 紀伊半島南西海岸沖に振り分け潮という特異な流れが発生する。振り分け潮の東部の東流部は, 接近した黒潮の強流部の北縁部分であるが, 西部の西流部の特性は明確にされていない。竹内(2005)は, 紀伊水道奥陸棚に接する形で発生する反時計回りの冷水渦に, 振り分け潮の西流部が連続的につながっ ている海況例を紹介している。また, 福田ら(2002)は, 数値モデル計算によって, 紀伊水道に発生する反時計回りの渦が西流部を作り出すことを示唆している。しかし, 2005年7 月および2006年8月の三重大学勢水丸による観測時には, 振り分け潮が発生していたが, 紀伊水道奥には冷水渦は存在せず, 振り分け潮の発生に対してこの渦の存在が必要条件ではないことが示される。和歌山水試の過去の海況観測資料を解析した結果では, 解析例の半数以上で, 紀伊水道奥陸棚に接する形の冷水渦と振り分け潮が同時に発生している。このことは, 紀伊水道奥の冷水渦の存在が振り分け潮が起こりやすい条件を与える可能性を示している。しかし, 振り分け潮西流部あるいは, 沖への流出部付近の水温・塩分には, 流れの場に対応するような構造がほとんど現れておらず, 振り分け潮と紀伊水道内の海況との関連については, 更に検討を重ねる必要がある。