マイクロチャネルを有するクロスフロー限外濾過装置は,濾過原液側の拡散距離が短いこと,膜面積の流路体積に対する比が大きいことなどの特徴がある.このことより,マイクロ化学システムにおけるタンパク質などの高分子物質の分離を効率よく行える装置として期待される.本研究では,マイクロ化学プロセスにおける酵素を含む溶液の分離を想定し,マイクロチャネルを有するクロスフロー限外濾過装置を作成して酵素のモデル物質であるポリビニルピロリドン(PVP)の水溶液のクロスフロー限外濾過実験を行った.
実験では,膜間圧力差,供給流量,溶液濃度をパラメータとし,透過流束の経時変化を測定した.実験結果より,いずれの条件でも十分時間が経過した後に透過流束はほぼ一定となることが確認された.また,その一定となった透過流束値は供給原液流量,膜間圧力差(TMP)の増加とともに増加し,供給液濃度の増加とともに減少する結果が得られた.
実験の結果をもとに,濃度分極モデル,溶質の軸方向への対流の効果を考慮したマイクロチャネル内の移動現象および膜の透過に関するモデルを構築した.モデルにより,チャネルを軸方向に並ぶ微小検査体積に分割し,膜面垂直方向の透過による移動と軸方向の原液の流れに伴う対流による移動を考慮した各体積についての溶質の物質収支をとり,局所の透過流束を推算した.推算された局所の流束の濾過装置全体についての平均値を装置全体の透過流束値とし,実験によって求められた流束値と比較検討した結果,モデルは妥当であることを確認した.