浅海の岩礁・転石域における大型の海藻群落が衰退・消失する磯焼けの問題に対して,考え得る要因の一つとして溶存鉄不足に着目した藻場再生技術の研究開発が行われてきた.本技術は,産業副産物である転炉系製鋼スラグと木質バイオマス由来の堆肥(腐植物質)を混合した施肥材(鉄分供給ユニット)を利用して海域への供給を行うものである.北海道日本海側での実証試験ではその効果が確認され,実用化に向けての研究・検討が進められているが,基礎研究としては,施肥材からの鉄溶出特性について,製鋼スラグへの有機物添加効果に着目した検討が行われてきた.施肥材として実際に使われている堆肥のほか,竹粉末の添加効果が検討されている.本研究においては,鉄溶出促進に寄与する有機物の特性を検討・評価することを目的として,竹炭およびリン酸マグネシウムアンモニウム(MAP)を担持したMAP担持竹炭の製鋼スラグへの添加効果に関する実験結果に基づき,これまでの研究を踏まえた考察を行った.また鉄以外の溶出特性として,製鋼スラグにも含まれるリンに着目しての定量的な検討を試みた.研究においては,製鋼スラグ,堆肥,竹炭,MAP担持竹炭を用いて9種類の試料を作製し,試料から溶出する全鉄,溶存鉄の経時変化をモニタリングしたほか,全リンについての分析を合わせて行った.その結果,鉄溶出促進に対する堆肥と製鋼スラグの混合効果が改めて示されたほか,添加する有機物については,溶出量の多さとともに鉄と錯形成しやすい構造を有する有機物を製鋼スラグに添加した方が効果的であることが推察された.さらに施肥材からはリンの溶出はあるものの,鉄溶出量との比較からリン供給材というよりも鉄供給材としての能力を有することが示唆された.