1985 年 11 巻 4 号 p. 444-449
テトラ(4-メチルピリジン)ニッケル(II)ジチオシアネート錯体を用いるアダクト晶析法によるp-キシレンの異性体分離に関して微分晶析法による検討を行った.p-キシレンとm-キシレンを含む溶液中から析出したクラスレート結晶中にはp-キシレンと溶媒分子のほかにm-キシレンも包接されその濃度は溶液中のm-キシレン濃度に比例して増加する.一方, 溶液中のp-キシレン濃度が増加すると, 結晶中のm-キシレン濃度は最初に増加し, 極大値を経て減少する.この初期の増加は, p-キシレン分子が包接され析出する過程で, m-キシレン分子が同伴される“アンカー効果”によるものと考えられる.p-キシレンとm-キシレンの固液間分配関係にBerthelot-Nernst則を適用し分離係数γを求めたところ, この値は溶液組成と晶析温度に依存し30~150の間で変化することが認められた.そこで, クラスレート結晶中のp-キシレンとm-キシレン濃度の相対値は, それぞれの液状クラスレートの析出速度の比によって決まると仮定して, 晶析モデルを提案した.この晶析モデルによって, 液状のp-X, m-Xクラスレート形成反応の平衡定数とそれらの析出速度定数からなる分離係数βが定義された.このβの値は, 液組成によらず一定となり本系の分離特性を良好に表現できることが明らかとなった.さらにβ値は本実験条件下では温度にもよらず一定とみなせることが認められた.