1989 年 37 巻 2 号 p. 131-135
まさに日本人には物あまりの時代のようである。身の周りには, これでもかこれでもかと, あらゆるぜいたく品が満ちあふれでいる。お金が豊かな人たちは気楽にそれらを買いあさる。それはそれなりに, まあ, よしとしよう。ささやかなぜいたくが欲望を満たしてくれるのなら。しかし, ろくに使いもせずにぽいと捨ててしまうのはよくない。特に筆者のように戦争を体験した人間には, 捨てるために造られた一枚のポリ袋でも, これを手にすると万感の思いがつのるのである。いまここで, 資源, 物を大切にしようと教訓をたれようというのではない。なにげない一本の糸, 一枚の布に秘められた科学, 技術の奥深さに接するならば, 少なくとも化学を学ぼうとする若い人たちには, 百言をつらねる教訓よりも, "物"の持つ素晴しさ, 貴重さに感動し, さらに将来に向っで無限の楽しみと夢が生まれてくるはずである。