1994 年 42 巻 8 号 p. 538-545
化学がおもしろいと感じるのは, 物質の化学的な反応性や物理的な性質が物質を構成する分子やイオンの構造から明快に説明できたときであろう。最近X線結晶解析が元素分析を行うような感覚で誰でも容易に分子構造や結晶構造が得られるようになってきたので, 化学の広範な分野で分子構造の微妙な違いによる性質の変化や分子やイオンの周囲の構造の違いによる物理的な性質の差などが明らかになりつつある。さらに最近結晶格子を保ったまま結晶内で光反応する新しい現象も見つけられ, 直接構造を観察しながら反応を追跡することまで可能になってきた。これまで構造を見るためのデータ収集時間は約100時間であったが, 最近1時間まで短縮した装置も完成したので, さらに新しい過渡的な現象まで見られるであろう。