2019 年 67 巻 7 号 p. 308-313
地球大気に含まれるオゾンは成層圏で生成し,その殆どが地表から20~30kmに滞留して「オゾン層」を形成する。ここでのオゾン生成・分解サイクルを通して太陽からの紫外線を効率的に吸収し,生体に有害な紫外線の地表への到達を防ぐ生命維持にとって不可欠なバリアとして機能している。その存在が,人類活動により脅かされる“オゾン層破壊”が明らかになったのは1980年代初めであるが,積極的な対策の効果により現在では回復傾向にあり,最悪の事態は回避されたと見られている。対策を成功に導いたのは,成層圏オゾンの生成・分解機構の解明について先駆的な役割を果たし,問題が明確化する以前からその可能性を警告した功績で1995年ノーベル化学賞を受賞したクルッツェン,ローランドおよびモリナらの研究である。本稿では,彼らの研究とそれにより解明されたオゾン層の生成・破壊のメカニズムについて概説し,対策の流れと現状について述べる。