長年にわたる先人の経験に基づいて形成されてきた呉茱萸湯証を再考した。84名の慢性頭痛患者に対してツムラ呉茱萸湯エキス (TJ-31) 7.5g/日を4週間投与した。投与後に患者がレスポンダーか否か判定を行った。投与前に43項目からなる漢方医学的所見をとり, レスポンダーか否かを目的変数にした判別分析 (厳密に言えば数量化II類) を施行した。最終判定を行った80名のうち57名がレスポンダー, 23名がノンレスポンダーであった。ステップワイズ変数選択により「 (他覚的) 足冷」, 「胃内停水」, 「胸脇苦満」, 「臍傍圧痛」, 「腹部動悸」の5項目が有用な項目として抽出された。これらを使用した判別分析の誤判別率は35%であった。特に23名のノンレスポンダーのうち20名を正確に判別することができ, この5項目は呉茱萸湯証でない者を除外するのに役立つと考えられた。経験的に形成された呉茱萸湯証に, 「臍傍圧痛」や「腹部動悸」といった徴候も加えることでさらに診断の正確度が増す可能性が示唆された。