日本東洋医学雑誌
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原著
古典で指定されている方剤を煎じる水量の意味
—通脈四逆加猪胆汁湯と茯苓四逆湯のアコニチン型アルカロイド濃度に着目して—
笛木 司田中 耕一郎奈良 和彦千葉 浩輝加藤 憲忠川原 隆道諸橋 弘子柴山 周乃並木 隆雄別府 正志牧野 利明
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2021 年 72 巻 2 号 p. 107-118

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抄録

『外台秘要方』四逆加猪胆湯と『宋板傷寒論』通脈四逆加猪胆汁湯は,主治条文の相同性が高いが,配合生薬量と煎じ前後の指定水量の記述は大きく異なる。その指定水量をもとに各々の適正煎じ時間を推定,中国を想定した硬水で煎液を調製すると,両者の2倍の附子配合量差に対し,煎液中ブシジエステル型アルカロイド(ADA)量の差は1.2—1.4倍に止まった。往時,附子の有効性と安全性を管理するための水量指定による煎じ時間調節が厳密であったことが示唆された。一方,『宋板傷寒論』茯苓四逆湯の附子,甘草の配合量は四逆湯に等しいが,条文指定水量は四逆湯の2倍量に近い。両者を硬水で煎じると,茯苓四逆湯の煎液は四逆湯に比べ低 ADA 量かつ高非エステル型アルカロイド量の組成となることが観察された。古典で処方ごとに異なって指定された水量は,特に硬水を用いる環境では,煎液中成分組成を決定する重要な意味を担っていたことが示唆された。

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© 2021 一般社団法人 日本東洋医学会
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