日本東洋医学雑誌
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72 巻, 2 号
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原著
  • —通脈四逆加猪胆汁湯と茯苓四逆湯のアコニチン型アルカロイド濃度に着目して—
    笛木 司, 田中 耕一郎, 奈良 和彦, 千葉 浩輝, 加藤 憲忠, 川原 隆道, 諸橋 弘子, 柴山 周乃, 並木 隆雄, 別府 正志, ...
    原稿種別: 原著
    2021 年72 巻2 号 p. 107-118
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/07/29
    ジャーナル フリー

    『外台秘要方』四逆加猪胆湯と『宋板傷寒論』通脈四逆加猪胆汁湯は,主治条文の相同性が高いが,配合生薬量と煎じ前後の指定水量の記述は大きく異なる。その指定水量をもとに各々の適正煎じ時間を推定,中国を想定した硬水で煎液を調製すると,両者の2倍の附子配合量差に対し,煎液中ブシジエステル型アルカロイド(ADA)量の差は1.2—1.4倍に止まった。往時,附子の有効性と安全性を管理するための水量指定による煎じ時間調節が厳密であったことが示唆された。一方,『宋板傷寒論』茯苓四逆湯の附子,甘草の配合量は四逆湯に等しいが,条文指定水量は四逆湯の2倍量に近い。両者を硬水で煎じると,茯苓四逆湯の煎液は四逆湯に比べ低 ADA 量かつ高非エステル型アルカロイド量の組成となることが観察された。古典で処方ごとに異なって指定された水量は,特に硬水を用いる環境では,煎液中成分組成を決定する重要な意味を担っていたことが示唆された。

臨床報告
  • 山崎 正寿
    原稿種別: 臨床報告
    2021 年72 巻2 号 p. 119-123
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/07/29
    ジャーナル フリー

    起立性調節障害は今日思春期の疾患としてまた社会的問題として,その治療が注目されている。今回小児心理学会の診断基準による起立性調節障害と思われる10症例に,漢方医学的診断と治療を実施して,凡てで改善をみることができた。この10例を分析したところ,起立性調節障害を引き起こす背景として,血証,水毒,心身症的要因などが見いだされ,血証には加味逍遙散,温経湯,当帰芍薬散を処方,水毒には五苓散合九味檳榔湯,苓桂朮甘湯を処方,心身症的要因には柴胡桂枝湯,柴朴湯を処方した。現代医学的治療では治療効果が不十分であり,漢方医学的診断と治療が大変有効であると考えられる。

  • 犬飼 賢也, 堀 知行
    原稿種別: 臨床報告
    2021 年72 巻2 号 p. 124-129
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/07/29
    ジャーナル フリー

    副鼻腔真菌症に対する治療は上顎洞の洗浄,手術が一般的である。今回は洗浄のみでは改善しなかったが,辛夷清肺湯を使用したところ,急激に真菌塊が排泄された症例を経験したので報告する。

    57歳男性。X 年5月17日,某大学病院歯科で右上顎智歯を抜歯したが,術前 CT にて右上顎洞真菌症が疑われ,同年6月19日,同院耳鼻科に紹介された。右上顎洞は大きく開放されており,洞内に真菌塊があり,外来で生理食塩水にて適宜洗浄を行い,自宅でも洗浄をしていた。10月19日自宅に近い当院を紹介受診した。辛夷清肺湯を処方した。11月11日,自宅で鼻洗浄をしていたら,真菌塊が排出された。病理ではアスペルギルスであった。

    過去の文献を渉猟した限りでは副鼻腔真菌症に対する辛夷清肺湯の報告はない。洗浄のみでは改善しない副鼻腔真菌症症例に試してみる価値があると思われた。

  • 福嶋 裕造, 藤田 良介, 宮本 信宏, 濵吉 麻里, 大塚 裕眞
    原稿種別: 臨床報告
    2021 年72 巻2 号 p. 130-134
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/07/29
    ジャーナル フリー

    大動脈解離術後の慢性播種性血管内凝固症候群(DIC)による手掌挫瘡の出血傾向に対して漢方薬が有効であったので報告する。症例は74歳女性であり大動脈解離に対する人工血管とステント・グラフト施行の既往があった。転倒して手掌から出血があり受傷2日後に総合病院の整形外科を受診して処置をされ,受傷3日後に当院を紹介され,受傷後12日でも創が治癒せず止血しないため外科的な止血術を行った。同日の5時間後に止血しないため当院を受診し,芎帰膠艾湯と加味帰脾湯を投与して,検査で血小板減少があり追加検査を行い,次の日には止血していた。 投与3日目にも止血していたが,精査結果は DIC が判明した。循環器専門病院でステント・グラフトの末端で偽腔に漏出があり,これによる慢性 DIC による出血傾向である可能性が指摘された。慢性 DIC による出血に対して,漢方治療が応急的な止血に有用であったと思われた。

  • —下肢蜂窩織炎の3症例から—
    吉永 亮, 後藤 雄輔, 牧 俊允, 井上 博喜, 矢野 博美, 田原 英一
    原稿種別: 臨床報告
    2021 年72 巻2 号 p. 135-143
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/07/29
    ジャーナル フリー

    下肢蜂窩織炎の3症例を経験した。症例1は88歳女性,症例2は36歳男性で,ともに急性期から標準的治療と桂枝二越婢一湯と治打撲一方による漢方治療を併用してすみやかに治癒した。症例3は52歳女性。高度肥満があり蜂窩織炎を繰り返していたが,桂枝茯苓丸を中心とした治療を行い,下肢の紅斑と熱感が消失した。蜂窩織炎の治療では適切な抗菌薬の投与と患部の挙上が重要であるが,治療に難渋する症例が存在する。蜂窩織炎による局所反応は浮腫,紅斑,熱感,疼痛であり,漢方医学的には水毒・熱・瘀血と捉えて治療できる。本報告から,蜂窩織炎の急性期では水毒や熱に対する治療が重要で,桂枝二越婢一湯の適応となりやすく,急性期以降は瘀血に対する治療が特に重要であることが推測された。蜂窩織炎に対して発症時期や皮膚所見を考慮した漢方治療をおこなうことで,すみやかな治癒に貢献できる可能性がある。

  • 寺澤 捷年, 小林 亨, 隅越 誠, 辻 正徳, 地野 充時
    原稿種別: 臨床報告
    2021 年72 巻2 号 p. 144-147
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/07/29
    ジャーナル フリー

    筆者らは漢方方剤・当帰四逆加呉茱萸生姜湯が奏効した三叉神経痛の二症例を経験した。第一例は70歳の女性で,右側顔面の激しい疼痛を訴えた。カルバマゼピンが投与され痛みは軽減したが,副作用と考えられる運動失調が現れたため持続的な服薬は出来なかった。そこで当帰四逆加呉茱萸生姜湯の投与を試みたものである。この方剤は奏効し,カルバマゼピン無しで痛みは制御された。第二例は69歳の女性で右側顔面の部分的疼痛を訴えた。この症例に於いては当帰四逆加呉茱萸生姜湯単独で効果が得られた。

  • 田原 英一, 後藤 雄輔, 牧 俊允, 吉永 亮, 井上 博喜, 矢野 博美
    原稿種別: 臨床報告
    2021 年72 巻2 号 p. 148-152
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/07/29
    ジャーナル フリー

    著明な栄養障害に対して五苓散と補血剤が奏効した1例を報告する。17歳の女性が著明なるいそうに対して諸検査を受けたが,原因は不明であった。五苓散を投与後,浮腫が軽減して体重が増加に転じ,その後四物湯または疎経活血湯を併用して貧血の改善,筋肉量の増加を認めた。五苓散と補血剤は消化管を含む全身の水分バランスを改善し,消化吸収機能を回復させた可能性がある。

  • 谷口 大吾, 生駒 和也, 牧 昌弘, 城戸 優充, 原 佑輔, 大橋 鈴世
    原稿種別: 臨床報告
    2021 年72 巻2 号 p. 153-158
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/07/29
    ジャーナル フリー

    足底腱膜炎患者を対象に未治療例5例,他院での治療歴のある難治例で,西洋医学的治療のみ行った15例(非漢方群),難治例で西洋医学的治療に加えて漢方治療を行った15例(漢方群)について治療内容と効果を検討した。3 群で年齢と初診時疼痛 VAS に差はなかった。未治療例は従来の西洋治療で軽快し,治療期間も短かった。漢方群は当科での初期治療が効果不十分な症例に対して治療開始3ヵ月ごろから漢方薬を開始していることが多かった。 このため漢方群はより難治な症例が多く,最終観察時疼痛 VAS が不良で,治療期間も長かった。漢方治療はすべてエキス剤の内服で,有効例は4例,薏苡仁湯と通導散の併用が2例,薏苡仁湯単独が1例,薏苡仁湯,通導散および桂枝茯苓丸加薏苡仁の併用が1例であった。疎経活血湯は3例に使用し無効であった。この結果から難治性足底腱膜炎は風寒湿,血虚に加えて気滞,瘀血の病態を呈していると推察された。

  • 藤田 昌弘, 伊添 千寿, 西本 隆
    原稿種別: 臨床報告
    2021 年72 巻2 号 p. 159-165
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/07/29
    ジャーナル フリー

    51歳男性。X—1年5月から朝夕を中心として,全身の各所に蕁麻疹が繰り返し出没するようになった。皮膚科にて慢性蕁麻疹と診断され,抗ヒスタミン薬や当帰飲子の治療を受けるも改善せず,X 年1月に当院受診した。漢方医学的所見は,暑がりであり,皮膚は乾燥傾向,舌候は舌質が暗紅で苔は黄,脈候は沈弦で有力,腹候は胸脇苦満があった。血虚瘀血と肝気鬱滞と診断し,荊芥連翹湯や竜胆瀉肝湯を中心とした治療から開始した。若干の改善を認めるも効果不十分であった。漢方治療経過中の舌苔は厚いことが多かった。湿熱が蕁麻疹出現の主な要因であると考え,エキス製剤清上防風湯5gと茵蔯五苓散5~7.5gへ変更したところ,服用開始から1週間以降は蕁麻疹の出現はほとんどなくなった。

    慢性蕁麻疹において,西洋薬での治療効果が不十分な症例にしばしば遭遇するが,漢方治療が有効となりうる可能性があると思われる。

  • 井上 博喜, 牧 俊允, 後藤 雄輔, 吉永 亮, 矢野 博美, 田原 英一
    原稿種別: 臨床報告
    2021 年72 巻2 号 p. 166-170
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/07/29
    ジャーナル フリー

    木防已湯は慢性心不全による呼吸困難や浮腫に使用されることが多い。今回,心下痞堅を目標に木防已湯を処方し有効であった2症例を経験した。症例1は28歳女性。12年前から時々心窩部痛を認めていたが,当科初診の2ヵ月前に増悪した。検査を施行されたが心窩部痛の原因は分からず機能性胃腸症と診断された。当科に紹介後,種々の漢方方剤で加療を行ったが,症状の改善に乏しかった。症例2は74歳男性。過活動膀胱と通年性アレルギー性鼻炎に対して,八味地黄丸や小青竜湯などを処方し小康を保っていたが,2ヵ月後急に症状が悪化した。2症例とも心下痞堅を目標に木防已湯に転方したところ症状が軽快した。木防已湯は心下痞堅を目標にすると幅広い症例に使用できると思われた。

  • 高橋 浩子, 川添 和義, 日笠 久美
    原稿種別: 臨床報告
    2021 年72 巻2 号 p. 171-176
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/07/29
    ジャーナル フリー

    防風通聖散と桂枝茯苓丸で皮膚症状が改善した掌蹠膿庖症の1例を経験した。症例は42歳,女性。ビオチン,ステロイド軟膏を処方されたが難治状態で当クリニックを初診。両手掌と足底に膿痂疹と亀裂,鱗屑が見られた。一貫堂の解毒証体質,瘀血証体質と判断し,本治法として防風通聖散と桂枝茯苓丸を処方したところ,数日で皮膚症状が改善した。甲状腺機能亢進症の発症を契機に再燃したが,標治法として消風散と越婢加朮湯に変更し改善した。 その後は,再び防風通聖散と桂枝茯苓丸の併用とし,症状は安定した。掌蹠膿庖症において,解毒証体質,瘀血証体質の関与は重要であり,防風通聖散や桂枝茯苓丸は本治の方剤として有効であると考えられた。臓毒証体質,瘀血証体質の観点から,本治として防風通聖散や駆瘀血剤を選択し考察した論文は検索した範囲ではなく,本症例は貴重な例と考えられた。

  • 中山 毅, 向 亜紀, 鈴木 京子, 堀越 義正, 小泉 るい, 伊東 宏晃
    原稿種別: 臨床報告
    2021 年72 巻2 号 p. 177-181
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/07/29
    ジャーナル フリー

    多嚢胞性卵巣症候群を併発した続発性無月経を呈する思春期女性に,随証療法から小建中湯を選択し,正常月経周期となった1例を経験した。症例は14歳。続発性無月経に対してホルモン療法がなされるも,浮腫や体重増加を来し,治療困難となり,漢方内科を受診。続発性無月経,卵巣に複数の小嚢胞があり,さらに高テストステロン血症を認めることから,多嚢胞性卵巣症候群と診断。食事指導に加えて,虚証で腹力が弱く,腹直筋の攣急が顕著であったことから,小建中湯を投与した。投与後月経周期が回復するとともに,投与前に認めた高テストステロン血症が改善した。随証療法の有効性を再認識すると同時に,脾気虚を伴う続発性無月経には,食事指導にあわせて建中に着目した漢方療法を行うことが有効ではないかと推察した。

調査報告
  • 関根 麻理子, 牧野 利明, 田中 耕一郎, 嶋田 沙織, 四日 順子, 古屋 英治, 地野 充時, 田原 英一
    原稿種別: 調査報告
    2021 年72 巻2 号 p. 182-203
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/07/29
    ジャーナル フリー

    医療安全委員会では,安全に漢方方剤を使用するための啓発活動を行っており,前回,日本医療機能評価機構の薬局から登録されたヒヤリ・ハット事例を分析した。今回は,同機構の医療機関から登録された医療事故とヒヤリ・ハット事例を分析した。漢方製剤が関係する事例は626件であった。医療事故には,薬剤性肝障害事例があった。 ヒヤリ・ハット事例に関しては,処方時では漢方エキス製剤の1包の内容量の勘違いによる用法用量の誤り,調剤時では製剤番号・外観の類似や漢方処方名の類似による調剤の誤り,投薬時では漢方処方名まで確認せずに,漢字表記やメーカー名だけで判断することによる投薬の誤りがあった。ヒヤリ・ハット事例は当事者本人や同職種者に限らず,他職種者や患者本人から発見される事例も多かったことから,ヒヤリ・ハット事例は同職種者間での共有に留まらず,他職種者とも共有することが,医療安全の推進につながると考えられた。

短報
  • 鍋島 茂樹, 増井 信太, 坂本 篤彦, 埜田 千里, 菅沼 明彦
    原稿種別: 短報
    2021 年72 巻2 号 p. 204-207
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/07/29
    ジャーナル フリー

    症例は24歳女性。第1病日より咽頭痛が出現。第2病日より38℃台の悪寒・発熱がみられたため第3病日に発熱外来を受診し,感冒と診断された。鼻咽頭スワブより PCR にて新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)遺伝子を検出したためホテルへ移動,しかしその後も連日高熱および嘔気が続いていた。第5病日の昼に主治医の指示により麻黄湯の内服を開始。内服後に発汗して解熱し,その後も発熱をみていない。しかし嘔気が増強したため,麻黄湯は1日のみで中止した。第7病日の PCR は陽性であったが,Ct 値ではウイルス量の低下が示唆された。麻黄湯はインフルエンザに有効であると報告されているが,本症例のように,インフルエンザ様症状の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対しても有効である可能性が示唆された。また,副作用として嘔気を助長する可能性があるため,柴胡剤など他の方剤との組み合わせも考慮されるべきである。

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