スペイン風邪の際に漢方治療が多くの命を救ったことはよく知られる。古来よりインフルエンザを初めとした急性ウイルス性呼吸器感染症は傷寒などと呼ばれてきたが,本邦ではその治療にあたり,『傷寒論』『小品方』『太平恵民和剤局方』『万病回春』などから多くの処方が取り入れられてきた。江戸期には漢方治療は本邦独自の発展を遂げるものの,医療及び経済的な格差のため,その恩恵を受けた庶民は少数派であった。さらに傷寒治療のキードラッグである麻黄には,古来よりトクサ属植物と混同されるなど品質面に大きな問題を抱え,その薬効が過小評価されてきた可能性があることは,今後も留意すべきものと思われる。
新型インフルエンザ・コロナウイルスパンデミックにも,漢方の有効性が期待されている。しかしその力を十分に引き出すには,十分なレベルの知識のもと方剤を適正に使用することの重要性が,今回歴史を振り返ったことにより再認識させられた。