日本東洋医学雑誌
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72 巻, 4 号
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原著
  • —レッグウォーマーを対照とした多施設共同ランダム化比較試験—
    辻内 敬子, 小井土 善彦, 坂口 俊二
    原稿種別: 原著
    2021 年 72 巻 4 号 p. 341-348
    発行日: 2021年
    公開日: 2023/03/03
    ジャーナル フリー

    【目的】成熟期女性の冷え症に対する温灸のセルフケア(灸群)効果を,レッグウォーマー着用(レッグ群)を対照に多施設共同ランダム化比較試験で検証する。

    【方法】冷え症評価尺度で判定した49名(18歳~39歳)を,4施設毎に年齢でソートしランダム割付した。灸群25名は温灸を就寝前に各2壮,レッグ群24名は夜間着用し,1ヵ月間継続した。主要評価項目は,VAS による冷え症の程度,副次的には併存症状の苦痛度,前額部と末梢との皮膚温差等とした。

    【結果】レッグ群で妊娠と皮膚掻痒で各1名が脱落した。VAS および苦痛度の変化量は灸群で大きく,VAS で小の効果量,苦痛度で中の効果量を示した。前額部と合谷との体温較差は,灸群で抑えられ,中の効果量がみられた。

    【考察】成熟期女性の冷え症に対する温灸のセルフケアは,レッグウォーマー着用に比して冷え症の程度と併存症状の苦痛度を軽減し,前額部と末梢との皮膚温差拡大を抑制することが示唆された。

臨床報告
  • 内海 康生, 福嶋 裕造, 藤田 良介, 戸田 稔子, 能美 晶子, 宮本 信宏
    原稿種別: 臨床報告
    2021 年 72 巻 4 号 p. 349-353
    発行日: 2021年
    公開日: 2023/03/03
    ジャーナル フリー

    皮膚疾患の皮疹が局在している場合があり,これは西洋医学では説明できないことが多い。しかし,漢方医学的には皮疹の局在について経絡学的に解釈することができ,よりきめ細やかな治療が可能であった2症例について報告する。症例1は32歳女性,口囲に散在性の丘疹にて尋常性痤瘡と診断し,六君子湯を投与して軽快した。症例2は37歳男性,アトピー性皮膚炎にて頚部の皮疹が目立ち,辛夷清肺湯を投与して軽快した。皮疹の改善後に経絡的に考察した。上記2症例の疾患の部位はそれぞれ足陽明胃経,手陽明大腸経が通っている。六君子湯と辛夷清肺湯の構成生薬はそれぞれすべて脾経,肺経に関連しており,六君子湯は足太陰脾経を介して,つながって表裏をなしている足陽明胃経に,辛夷清肺湯は手太陰肺経を介して,つながって表裏をなしている手陽明大腸経に働いたと考えられた。経絡的な解釈でこれらの疾患に対して漢方治療が有効であったと考えられた。

  • 具志 明代, 田原 英一
    原稿種別: 臨床報告
    2021 年 72 巻 4 号 p. 354-360
    発行日: 2021年
    公開日: 2023/03/03
    ジャーナル フリー

    局所麻酔下切開排膿適応の感染性表皮嚢腫(IEC)患者125例(男性52例 女性73例)に対して排膿散及湯(HST)内服治療を行い,感染兆候軽快後1年再発のないものを略治とし,略治率,略治までの日数について性別,年齢,罹患部位,抗菌剤併用有無,基礎疾患の有無で後ろ向き研究を行った。結果は全体としては88例(70%)が略治した。性別検討では男女差はなかった。年齢別検討では30—50歳代で脱落が多く,この年代でやや略治率は低い傾向であった。部位別検討では略治率が背部・臀部以外群で63例/78例中(80%)であり有意に高かった。同群の平均内服日数は13.3日だった。抗菌剤併用について,略治率は併用群が高い傾向だったが,平均内服日数は HST 単独群が11.9日で HST 単独群が有意に短かった。基礎疾患群は24例中21例(87.5%)略治し通常群に比べ有意に高かった。平均内服日数に有意差はなかった。

  • 中山 毅, 俵 史子, 村林 奈緒, 宗 修平, 山口 和香佐, 宮野 奈緒美, 植田 健介, 鈴木 京子, 堀越 義正, 小泉 るい, 向 ...
    原稿種別: 臨床報告
    2021 年 72 巻 4 号 p. 361-367
    発行日: 2021年
    公開日: 2023/03/03
    ジャーナル フリー

    目的:加味逍遙散や当帰芍薬散を中心とした漢方治療を,一般不妊治療に併用する意義を明らかにする。

    対象と方法:不妊漢方外来を受診し,一般不妊治療が行われた41名(漢方併用群)を対象。同時期に一般不妊治療のみ実施した781名(非漢方併用群)を比較し,周期別妊娠率,処方別の累積妊娠率を後方視的に調査。

    結果:1周期目の妊娠率は漢方併用群が24.4%,非漢方併用群が8.5%と,漢方併用群で妊娠率が高かった(P = 0.003)。2周期以降に差はなかった。処方別妊娠率は,加味逍遙散が26.7%,当帰芍薬散が22.2%,非漢方治療群は8.5%であった。

    考察:一般不妊治療に加味逍遙散や当帰芍薬散を併用することにより,早期から妊娠成立に至った可能性が高い。 一方で漢方併用後も妊娠に至らない場合は,西洋医学としてのステップアップを考慮する契機になるのではないかと推察した。

  • 小野 孝彦, 鈴木 大輔, 山崎 玄蔵, 大瀬 綾子, 横山 健
    原稿種別: 臨床報告
    2021 年 72 巻 4 号 p. 368-376
    発行日: 2021年
    公開日: 2023/03/03
    ジャーナル フリー

    八味地黄丸の適応として,下肢痛,腰痛,浮腫,疲労倦怠感,冷感,高血圧の随伴症状などの記載がみられる。 冷えや痛みなどを訴える患者に八味地黄丸を投与し,その後の血圧経過を観察した。八味地黄丸として生薬末混合丸剤を45歳以上,平均年齢71歳の12例において腎虚の諸症状,血圧を観察した。冷えと痛みは,3ヵ月後の評価で有意に改善した。9ヵ月以上の八味地黄丸服用を希望した9症例のうち,8症例で降圧薬治療がされていた。うち4症例で9ヵ月までにアンジオテンシン受容体拮抗薬3例と Ca 拮抗薬1例で降圧薬の減量があった。八味地黄丸治療前の収縮期血圧は平均で127mmHg であり,降圧薬の減量にもかかわらず,9ヵ月後の収縮期血圧は平均で128mmHg と安定していた。降圧薬治療中の患者に対して八味地黄丸の長期服用により減量をもたらす可能性があり,血管内皮保護作用が推測され,高齢化社会における有用性が示唆される。

  • 戸田 稔子, 塩田 敦子, 福嶋 裕造, 藤田 良介, 多久島 康司, 能美 晶子
    原稿種別: 臨床報告
    2021 年 72 巻 4 号 p. 377-382
    発行日: 2021年
    公開日: 2023/03/03
    ジャーナル フリー

    瘀血あるいは気滞を除く随証治療で当帰芍薬散証へ導き,当帰芍薬散内服時に妊娠し出産に至った不妊の3症例を報告する。症例1(39歳)は原因不明不妊患者で,焦燥感に対し桂枝茯苓丸加薏苡仁と抑肝散加陳皮半夏を服用していた。症例2(33歳)は軽度排卵障害の治療中,補助的漢方治療として桂枝茯苓丸を服用していた。症例3(37歳)は原因不明不妊患者で,人工授精も無効であった。月経前症候群に対して加味逍遥散と補中益気湯を服用していた。冷えと易疲労感で当院を受診した。3症例とも漢方医学的な証に応じて当帰芍薬散に変方したところ,早期に妊娠成立した。また,妊娠中も服薬継続して生児の分娩に至った。3症例とも駆瘀血や順気の治療の後,証の変化をとらえ,仕上げに投与した当帰芍薬散が有効であった。不妊に対する当帰芍薬散投与は,随証漢方治療により心身を整え,当帰芍薬散の腹候に変化した際に行うことが重要であることが示唆された。

  • 野瀬 由圭里, 高村 光幸, 横地 歩, 丸山 一男
    原稿種別: 臨床報告
    2021 年 72 巻 4 号 p. 383-387
    発行日: 2021年
    公開日: 2023/03/03
    ジャーナル フリー

    症例は70歳女性。非特定型末梢性 T 細胞リンパ腫に対する化学療法を受けたが,経過中に化学療法誘発性末梢神経障害(CIPN)が出現した。薬剤減量や中止後も症状不変であったが,規定のコース回数の化学療法は完遂した。その後9ヵ月経過も神経障害の軽減なく灸治療を希望し受診された。東洋医学的には気血両虚,腎精不足が考えられたため補気,補腎,局所循環改善を目的に三陰交,八風,八邪,関元へ各1壮ずつ施灸したところ症状が速やかに軽減した。有害事象は認めず,その後の再発も認めていない。抗がん剤による末梢神経障害症状に対し,鍼施術が有効であった報告は散見されるが,今回我々は灸施術のみで症状が緩和された症例を経験した。灸施術が末梢神経障害を緩和できれば,抗がん剤治療の完遂に役立つ可能性があり,薬剤内服ができない場合や,鍼施術を回避せざるを得ない場合でも応用できる場合がある。

  • 大平 征宏, 木村 道明, 小菅 孝明, 熊野 浩太郎, 龍野 一郎, 秋葉 哲生
    原稿種別: 臨床報告
    2021 年 72 巻 4 号 p. 388-396
    発行日: 2021年
    公開日: 2023/03/03
    ジャーナル フリー

    症例は発熱,左膝関節痛を主訴に来院した60歳男性。月1回の頻度で発熱と関節痛が発作的に出現し,約3日で自然軽快していた。約20年前に漢方薬(方剤不明)で改善したことがあり,漢方薬治療を希望し当院を受診した。 関節痛は温めると改善するため,寒湿痺と考え桂枝加朮附湯エキス7.5g/日を処方した。発作時の関節痛は軽減したが,毎月のように出現していた。さらなる改善を目的に,桂枝加朮附湯エキス5g/日と麻黄附子細辛湯エキス5g/日を併用したところ,発作の頻度が激減した。臨床症状および経過,他院での X 線検査,当院での血液検査から回帰性リウマチの可能性を考えた。短期間で自然軽快する発熱を伴う関節炎発作に対し,桂枝加朮附湯エキスと麻黄附子細辛湯エキスの併用が有効であった症例を経験したので報告する。

調査報告
  • —技術料の適正化の必要性—
    田原 英一, 山下 嘉昭, 下田 宗人, 沼田 真由美
    原稿種別: 調査報告
    2021 年 72 巻 4 号 p. 397-401
    発行日: 2021年
    公開日: 2023/03/03
    ジャーナル フリー

    自家製丸薬調剤の製造実態をアンケート調査した。回答が得られた14施設のうち,1種類のみを製造している薬局が4施設,11種類以上製造している薬局は4施設であった。手作りが7施設,機械使用が5施設,手作りまたは機械使用と回答した施設が2ヵ所あった。製造工程はおよそ9工程におよび,単純に丸薬を作る時間だけなら2~3時間でも可能とみられるが,事前の準備,機械の洗浄,メインテナンスなども含むと数日以上を必要とする工程であると思われた。以上を踏まえると現在の丸薬製造に関わる技術料は極めて低いと思われる。

  • 牧野 利明, 安井 廣迪, 並木 隆雄
    原稿種別: 調査報告
    2021 年 72 巻 4 号 p. 402-414
    発行日: 2021年
    公開日: 2023/03/03
    ジャーナル フリー

    2016年に出版された欧州薬局方第9版では,東アジア伝統医学で使用される生薬66品目が収載された。米国薬局方でも生薬の収載品目数は増加傾向にある。そこで本稿では,欧州および米国薬局方に収載された生薬のうち,日本の医療用漢方製剤に使用されるものを取り上げ,それらの名称や基原を東アジアの各国薬局方の記述を国際比較した。6ヵ国の薬局方で基原が共通する生薬は4品目で,名称も共通していたものはヨクイニンのみであった。米国を除いた5ヵ国の薬局方で基原が共通する生薬は19品目で,名称も共通していたのはキキョウとトチュウのみであった。それら以外の生薬では,各国薬局方にある名称や基原が異なっていた。各国の研究者が自国で使用されている生薬や漢方薬に関する情報を世界に発信するときは,生薬英名,ラテン名ではなく,世界共通である国際命名規約に基づいた動植物の学名とその部位で表記する執筆する必要があると考えられた。

短報
  • 井齋 偉矢, 今井 雅浩, 上原 明彦, 糸山 貴浩, 巣山 久実
    原稿種別: 短報
    2021 年 72 巻 4 号 p. 415-419
    発行日: 2021年
    公開日: 2023/03/03
    ジャーナル フリー

    現在の新型コロナウイルス感染症(coronavirus disease 2019:COVID-19)によるパンデミックの前のものとして,1918~1920年のH1N1亜型インフルエンザの世界的大流行が挙げられる。日本における治療の記録として特記されるものに,東京の木村博昭が柴葛解肌湯などの処方を使用し,1人も死者を出さなかったという逸話がある。症例は31歳女性のCOVID-19陽性者で,ホテルにて経過観察になった初日から1週間柴葛解肌湯近似処方として,葛根湯と小柴胡湯加桔梗石膏が投与された。投与初日にみられた強い頭痛,酸素飽和度の低下,体動時のみならず安静時にもみられた心拍数の増加,体動時の息切れと,翌日から現れた味覚障害と嗅覚障害は,ホテル退所時にはほとんど認められず,葛根湯と小柴胡湯加桔梗石膏併用の有効性が示唆された。COVID-19は,初期から表証に加えて裏証を呈することが多いので,COVID-19に漢方治療を行う場合の第一選択には葛根湯と小柴胡湯加桔梗石膏併用が推奨される。

総説
  • 根津 雅彦, 鈴木 達彦, 平崎 能郎, 並木 隆雄
    原稿種別: 総説
    2021 年 72 巻 4 号 p. 420-451
    発行日: 2021年
    公開日: 2023/03/03
    ジャーナル フリー

    スペイン風邪の際に漢方治療が多くの命を救ったことはよく知られる。古来よりインフルエンザを初めとした急性ウイルス性呼吸器感染症は傷寒などと呼ばれてきたが,本邦ではその治療にあたり,『傷寒論』『小品方』『太平恵民和剤局方』『万病回春』などから多くの処方が取り入れられてきた。江戸期には漢方治療は本邦独自の発展を遂げるものの,医療及び経済的な格差のため,その恩恵を受けた庶民は少数派であった。さらに傷寒治療のキードラッグである麻黄には,古来よりトクサ属植物と混同されるなど品質面に大きな問題を抱え,その薬効が過小評価されてきた可能性があることは,今後も留意すべきものと思われる。
    新型インフルエンザ・コロナウイルスパンデミックにも,漢方の有効性が期待されている。しかしその力を十分に引き出すには,十分なレベルの知識のもと方剤を適正に使用することの重要性が,今回歴史を振り返ったことにより再認識させられた。

論説
  • 田原 英一, 後藤 雄輔, 牧 俊允, 吉永 亮, 井上 博喜, 矢野 博美
    原稿種別: 論説
    2021 年 72 巻 4 号 p. 452-459
    発行日: 2021年
    公開日: 2023/03/03
    ジャーナル フリー

    傷寒論の陽病は太陽病,陽明病,少陽病だが,日本では太陽病,少陽病,陽明病と説明される。日本の疾病史を調査したところ,江戸時代までに日本で伝染性,発熱性,高致死率の疾患は天然痘,麻疹,インフルエンザであり,これらの疾患は二峰性発熱を呈していた。さらに主に江戸時代の文献から漢方医家が傷寒論の順についてどのように考えたかを調査,検討したところ,これらの3つの疾患の流行期と少陽病を支持する医家が増加する時期は一致していた。1700年頃から流行が激しくなった3つの疾患を通して,太陽病,少陽病,陽明病の順が認知されていったと考えられる。

Letter
フリーコミュニケーション
  • 伊藤 隆, 渡 三佳, 斉藤 宗則, 星野 卓之, 横堀 由喜子, 矢久保 修嗣, 若山 育郎
    原稿種別: フリーコミュニケーション
    2021 年 72 巻 4 号 p. 461-472
    発行日: 2021年
    公開日: 2023/03/03
    ジャーナル フリー

    国際疾病分類第11版(ICD—11)伝統医学章の新設記念講演会が2020年2月開催された。ICD 室長よりWHO による開発途上国からのデータ収集増加への期待から2006年に始まったこのプロジェクトの経緯が説明され,中国韓国との合意に苦労された関係者への謝意が示された。WHO では西洋医学病名とのダブルコーディングを推奨しており,両者の相互理解の促進が期待されている。鍼灸分野では日本提案である経絡病証が病証で採用されており,調査活動が始まっている。漢方分野では処方名分類に残された薬方の証に代表されるように,日本では処方内容を固定した形で使用する機会が多い特徴があるためこの分類により臨床的に意義ある解析が可能になる利点がある。 診療情報分野では診療情報士にとって伝統医学に対する理解のハードルの高いことが指摘されている。今後,新分類に関する研究,翻訳,普及,教育が望まれる。

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