1997 年 48 巻 2 号 p. 163-176
わが国は歴史的に経験したことのない高齢化社会を迎え, 医療保険制度は財政的に破綻の危機に瀕している。国民の基本的人権とも呼べる「健康で人生を全うする」ための医学や医療, あるいは介護・福祉も, 政治や経済の埒外で論じることはもはや不可能な事態である。現在の混乱は「古い時代が終わり, 新しい時代が始まる, その夜明け前である」という認識に立って, 新しい時代を作り上げて行くのが私たちに課せられた使命である。
そこで, 本稿では漢方医学の過去を特に明治維新の医制改革周辺の問題を主に解析し, またその後の漢方医学復興の足跡を辿り, 漢方製剤の保険薬価収載の歴史を検証してみた。そして現在我々が抱える問題を分析し, 将来にわたって打破すべき古い価値観は奈辺にあるのか, 新しい価値観は何に求めるべきなのかを考え, 漢方医学の明日を論じた。