感染症学雑誌
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原著
Influenza (H1N1)2009 感染による小児入院肺炎例の解析―呼吸器合併症の有無による臨床的特徴―
長谷川 真紀
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2012 年 86 巻 1 号 p. 13-21

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抄録

 我々が経験した influenza (H1N1)2009 による入院肺炎例について,合併症の有無によって 2 グループに層別し,その臨床的特徴を後方視的に解析することを目的とした.
 2009 年 8 月から翌年 3 月までの間に,日本大学医学部付属練馬光が丘病院小児総合診療科を受診し,迅速診断キットあるいは real-time RT PCR によって influenza (H1N1) 2009 感染と診断された 1,777 名のうちの入院をした 121 例 (6.8%) を対象とした.各症例の入院から退院までの詳細を,病歴から調査した.
 Influenza (H1N1) 2009 入院例のうち呼吸器症状による例が 72 名を占め,56 例 (78%) は,胸部X 線所見によって肺炎と診断した.平均年齢は 6.9 歳,気管支喘息の既往は 35.7% であった.発症から3 日以内での入院が 80.4% を占めた.42 例 (75%) が入院時に呼吸窮迫を認め,酸素投与を必要とした.第 3 病日までに入院した症例では,血液検査において明らかな好中球増加とリンパ球減少を認めた.98.2% に 5 日間の抗ウイルス薬を投与した.
 肺炎例のうち,14 例は縦隔気腫や広範囲の無気肺等の重篤な呼吸器合併症を来していた(合併症群).これらの例は,非合併症群 (n=42) に比べて入院時の酸素飽和度が低いこと,非特異的 IgE 値が高値であることに有意差が認められた.また,合併症群では有意にイソプロテレノールが使用され,かつ入院期間が長かった.最終的に全例が後遺症なく軽快退院した.
 合併症群と非合併症群の比較から,特に非特異的 IgE 値が高値を示す児は,下気道や肺胞における IgE を介した好酸球性の過剰反応により,低酸素血症を伴う呼吸器合併症をきたしやすいといえる.
 そして上述した influenza (H1N1) 2009 肺炎例に対する後方視的解析から,日本の皆保険制度下における次のような医療環境,すなわち,i) 発症から短時間での受診,ii) 迅速診断キットによる早期診断,iii) 入院後の全身管理,iv) 抗ウイルス薬と続発感染症予防の抗菌薬の使用が,良好なアウトカムに寄与していると結論できた.

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© 2012 社団法人 日本感染症学会
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