感染症学雑誌
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平成23年度日本感染症学会東日本地方会最優秀賞 受賞記念論文
インフルエンザ菌b 型(Hib)保菌が意味すること―時間軸・空間軸・塩基配列型でみた Hib 伝播―
大塚 岳人岡崎 実
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2012 年 86 巻 2 号 p. 103-108

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抄録

 インフルエンザ菌b 型(Hib)は,依然としてわが国の侵襲性細菌感染症の主要原因菌である.一般に,侵襲性病態へ進展する前段階には上咽頭定着(保菌)が認められるため,Hib 保菌のモニタリングは予防策を講じる上で重要である.しかし,わが国の Hib 解析システムは患児分離菌を中心に構築されており,健常児に伝播・定着してから発症に至るプロセスの理解は十分とは言えない.
 Hib 保菌の実態を把握するため,われわれは 2008 年から佐渡島で出生コホート研究 (SADO-study2008) を展開している.定期健診時に上咽頭培養検査を行い,インフルエンザ菌および Hib の定着率を経時的に調査中である.現在までの結果は 4,7,10,18,36 カ月齢健常児のインフルエンザ菌分離率が 7.9%,12.0%,17.1%,27.1%,28.3%,Hib 分離率が 0.0%,0.6%,0.9%,1.5%,0.8% である.Hib は全検体の 0.8%,分離インフルエンザ菌の 4.2% を占めた.Sequence type (ST 型) や薬剤耐性型をもとに,同時期に感染症罹患児から分離された Hib 13 株(侵襲性感染6 株,呼吸器感染・中耳炎7 株)と保菌Hib 12 株について居住地区や所属保育園を時系列でプロットした.島内には ST54-gBLPACR-III 型,ST54-gBLNAR-I/II 型,ST190- gBLNAS 型,ST95-gBLPACR-I/II 型の 4 タイプが存在した.ST 型の派生,gBLPACR の頻度を検討した結果,それぞれの ST 型が独自のルートで島内に侵入したと考えられた.
 以上の結果を踏まえて,本稿では上咽頭に常在するHib が侵襲性感染症に進展する際に果たす役割について述べた.また,佐渡島南部で多発した侵襲性 Hib 感染症に対して,実地小児科臨床医が如何に対峙しているのかを紹介したい.

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© 2012 社団法人 日本感染症学会
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