感染症学雑誌
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原著
侵襲性Campylobacter jejuni/coli 感染症―2000~2015 年における 当院9 症例報告と日本人症例の文献的検討―
田坂 佳資松原 康策仁紙 宏之岩田 あや磯目 賢一山本 剛
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2016 年 90 巻 3 号 p. 297-304

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抄録

本邦においてCampylobacter jejuni Campylobacter coli による腸管外感染症や菌血症・敗血症について多数例の報告は極めて少ない.これら2 菌種による侵襲性感染症の臨床的・細菌学的特徴を明らかにするため,地域中核病院において2000~2015 年に無菌検体から同菌が分離された症例を対象に,診療録を後方視的に検討した.該当症例は9 例で全例菌血症であった.肝硬変や悪性新生物など基礎疾患を有する症例は3 例でいずれも60 歳以上で,一方残り6 例は40 歳未満の健常人であった.全例38.5℃以上の高熱を認めた.基礎疾患を有する3 例は,有しない6 例と比較すると,胃腸炎症状の合併率が低かった(1/3 例vs 4/6 例).抗菌薬感受性に関して,評価できた8 株全例で,imipenem/cilastatin,kanamycin,erythromycin に感性で, 2 株がlevofloxacin に耐性であった.抗菌薬加療は8 例で施行され,1 例は無治療で自然軽快した.予後の判明した8 例は全例で完治し,重篤な後遺症や再発例はなかった.過去に報告されている日本人14 症例についても検討したところ,高熱や基礎疾患の有無と胃腸炎合併率について同様の特徴を認め,3 例のX 連鎖無ガンマグロブリン血症患者全例に再発を認めたことが特徴的であった.既報と合わせた解析で,臨床症候群と治療の点から,2 群に大別できた.一つ目は背景疾患を保有しない小児・若年成人群で胃腸炎に合併した菌血症が主体で,治療は短期間または不要の群,二つ目は背景疾患を保有し,菌血症と場合によっては腸管外感染症を合併し,消化器症状を呈する割合が低く,適切な静脈内抗菌薬治療が必要な群である.本研究は,侵襲性C. jejuni/coli 感染症では我が国最多数例の報告であり,既報を合わせた検討により重要な疫学情報を提供した.

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© 2016 一般社団法人 日本感染症学会
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