感染症学雑誌
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原著
臨床検体からエンテロウイルスD68 型を特異的に検出・同定するためのプライマー開発と RT-Seminested PCR 条件の決定
蕪木 康郎上野 裕之嘉悦 明彦泊 賢太郎菊地 孝司小堀 すみえ宮崎 元伸
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2017 年 91 巻 3 号 p. 376-386

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抄録

エンテロウイルスD68 型(EV-D68)は,従来,呼吸器感染症の原因ウイルスと考えられてきた.近年,急性弛緩性麻痺の症例などから検出例が報告され,国内においても注目されている. EV-D68 を含むエンテロウイルス属(EV)の遺伝子検査は,VP4-VP2 領域を増幅するRT-Seminested-PCR 法(VP4-VP2-PCR 法)で遺伝子を検出する方法や,VP1 領域を増幅するCODEHOP RT-Seminested-PCR 法(CODEHOP 法)で血清型を同定する方法が広く使われている.この2 検査法を併用してEV-D68 の遺伝子検査を実施したところ,VP4-VP2-PCR 法で遺伝子が検出できたものの,CODEHOP 法でVP1 領域が増幅できず,血清型の同定ができない検体を複数確認した.また,VP4-VP2-PCR 法,CODEHOP 法ともに,複数の血清型のEV が重複感染している場合,いずれかの血清型が検出されない可能性が指摘されている.そこで,EV-D68 に対して高い感度,特異度を有し,加えて,EV の重複感染例に対してもEV-D68 を同定可能な検査法として,独自に設計したEV の血清型と関連の深いVP1 領域を増幅するプライマーを用いるRT-Seminested-PCR 法(本法)の開発を試みた.臨床検体を用いて検討した結果,本法は,VP4-VP2-PCR 法以上の感度があった.また,すでにEV-D68 以外のEV が同定されている2 検体より新たにEV-D68 を同定することができ,重複感染例に対してもEV-D68 を同定可能だった.加えて,1st-PCR における検出率が高く,系統樹解析に十分な長さの塩基配列を得ることができた. 以上より,本法は,EV-D68 を対象とした遺伝子診断の有用な手段と考えられた.

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© 2017 一般社団法人 日本感染症学会
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