感染症学雑誌
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原著
小児マイコプラズマ肺炎患者におけるトスフロキサシン・トシル酸塩内服後の急性腎障害
田島 剛宮下 英将三重野 孝太郎佐藤 恭弘澁谷 義彬小山 哲飯塚 雄俊
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2019 年 93 巻 5 号 p. 643-648

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抄録

重篤な感染症に罹患した小児が,急性腎障害を示すことはまれではない.しかし,マイコプラズマ肺炎で急性腎障害を認める症例は稀である.
我々は,マイコプラズマ肺炎患者において高度な腎障害を呈する児を経験した.この症例を契機に,マイコプラズマ肺炎患者の腎障害に着目し,投与されていた抗菌薬との関係を後方視的に診療録より調べた.マイコプラズマ肺炎の診断は,臨床症状,胸部単純X 線写真像,およびペア血清による血清学的な抗体上昇で行った.
2015 年4 月から2016 年3 月までに上記の診断基準に従って,博慈会記念総合病院小児科を受診した230 例のマイコプラズマ肺炎患者について血清クレアチニン値を調査した.患者の年齢は8 カ月から15 歳までで,男女比は1:1.05(男児112 例,女児118 例)であった.前投薬の有無の検討では,抗菌薬の前投薬なし88 名,β ラクタム薬63 名,マクロライド系薬43 名,ニューキノロン系薬33 名,そしてテトラサイクリン系薬が3 名であった.
血清クレアチニン値を検討した230 名中トスフロキサシン・トシル酸塩を投与されていた32 名中4 名(12.5%)のみがAKI(急性腎障害)診療ガイドライン2016 に示されているAcute Kidney Injury Network の判断基準の一つである血清クレアチニン値が基準値の2 倍を超えていた.抗菌薬投与なし群,β ラクタム薬群,マクロライド系薬群,テトラサイクリン系薬群の患児では,異常変動を疑う基準値の1.5 倍を超える症例はいなかった.なお,日本人小児の血清クレアチニン値の基準値はUemura らの報告によった.トスフロキサシン・トシル酸塩小児用細粒は,2009 年に承認され,2017 年に小児マイコプラズマ肺炎の適応が拡大された.しかし世界的にはニューキノロン系薬は小児に適応が少なく,使用経験が少ない.今回の検討から,トスフロキサシン・トシル酸塩の使用には腎機能への注意が必要であると考えられた.

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© 2019 一般社団法人 日本感染症学会
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