感染症学雑誌
Online ISSN : 1884-569X
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93 巻, 5 号
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原著
  • 田島 剛, 宮下 英将, 三重野 孝太郎, 佐藤 恭弘, 澁谷 義彬, 小山 哲, 飯塚 雄俊
    原稿種別: 原著
    2019 年 93 巻 5 号 p. 643-648
    発行日: 2019/09/20
    公開日: 2020/04/03
    ジャーナル フリー

    重篤な感染症に罹患した小児が,急性腎障害を示すことはまれではない.しかし,マイコプラズマ肺炎で急性腎障害を認める症例は稀である.
    我々は,マイコプラズマ肺炎患者において高度な腎障害を呈する児を経験した.この症例を契機に,マイコプラズマ肺炎患者の腎障害に着目し,投与されていた抗菌薬との関係を後方視的に診療録より調べた.マイコプラズマ肺炎の診断は,臨床症状,胸部単純X 線写真像,およびペア血清による血清学的な抗体上昇で行った.
    2015 年4 月から2016 年3 月までに上記の診断基準に従って,博慈会記念総合病院小児科を受診した230 例のマイコプラズマ肺炎患者について血清クレアチニン値を調査した.患者の年齢は8 カ月から15 歳までで,男女比は1:1.05(男児112 例,女児118 例)であった.前投薬の有無の検討では,抗菌薬の前投薬なし88 名,β ラクタム薬63 名,マクロライド系薬43 名,ニューキノロン系薬33 名,そしてテトラサイクリン系薬が3 名であった.
    血清クレアチニン値を検討した230 名中トスフロキサシン・トシル酸塩を投与されていた32 名中4 名(12.5%)のみがAKI(急性腎障害)診療ガイドライン2016 に示されているAcute Kidney Injury Network の判断基準の一つである血清クレアチニン値が基準値の2 倍を超えていた.抗菌薬投与なし群,β ラクタム薬群,マクロライド系薬群,テトラサイクリン系薬群の患児では,異常変動を疑う基準値の1.5 倍を超える症例はいなかった.なお,日本人小児の血清クレアチニン値の基準値はUemura らの報告によった.トスフロキサシン・トシル酸塩小児用細粒は,2009 年に承認され,2017 年に小児マイコプラズマ肺炎の適応が拡大された.しかし世界的にはニューキノロン系薬は小児に適応が少なく,使用経験が少ない.今回の検討から,トスフロキサシン・トシル酸塩の使用には腎機能への注意が必要であると考えられた.

  • 畦地 拓哉, 平井 由児, 上原 由紀, 笹野 央, 吉澤 寿宏, 松本 博志, 青嶋 瑞樹, 内藤 俊夫
    原稿種別: 原著
    2019 年 93 巻 5 号 p. 649-654
    発行日: 2019/09/20
    公開日: 2020/04/03
    ジャーナル フリー

    自然弁の感染性心内膜炎(IE)のempiric therapy としてEuropean Society of Cardiology(ESC)ガイドライン2015 ではampicillin(ABPC),cloxacillin(MCIPC),gentamicin(GM)の3 剤併用が推奨されている.本邦では黄色ブドウ球菌用ペニシリン製剤はABPC/MCIPC 合剤(ABPC/MCIPC)のみであり,これまでにIE のempiric therapy を目的としたABPC/MCIPC 投与例は報告されていない.本研究では, 2015 年1 月から2017 年8 月までに,当院でABPC/MCIPC が投与された症例のうち,改訂Duke 診断基準に基づき,自然弁によるIE と確定診断された症例を対象に,ABPC/MCIPC の感受性・安全性・アウトカムについて検討した.なお,18 歳未満の症例及びABPC/MCIPC 投与量が24g/日未満の症例は除外した.対象は8 名(男性5 名,女性3 名),年齢は34~76 歳(中央値68.5 歳),基礎疾患は自己弁弁膜症6 名,糖尿病3 名であった.対象患者の血液培養からmethicillin-susceptible Staphylococcus aureus(MSSA)2 例,viridans group streptococci(VGS)属3 例,その他3 例を検出し,8 例中7 例ではABPC 又はMCIPC に感性を示した.Definitive therapy に変更するまでの投与期間は2~6 日(中央値3.5 日)であり,この期間において有害事象による中断はなかった.MSSA 2 例は中枢神経病変を合併し,definitive therapy 目的にABPC/MCIPC が継続された.うち1 例は投与開始12 日目に先行する皮疹と急性腎不全が出現しvancomycin+ceftriaxone に変更となった.IE 患者のempiric therapy として数日間のABPC/MCIPC 24g/日投与は血液培養から検出された病原体全てに感受性を示し,有害事象は認められなかった.またMSSA はIE の代表的起因菌であり,本邦でも中枢移行性が良好な黄色ブドウ球菌用ペニシリン製剤の必要性が再認識されるべきであると考えられた.

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