感染症学雑誌
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病院内で発生したサルモネラ下痢症について
臨床的ならびに疫学的検討
西村 忠史田吹 和雄高島 俊夫広松 憲二
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1982 年 56 巻 6 号 p. 486-495

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抄録

昭和52年7月, 本学病院の小児病棟で入院中の患者31名中に, salmonella typhimuriumによる院内感染 (下痢症9名, 保菌者6名) が発生した.
下痢症患者は全員高熱と腹痛, 発症時より頻回の水様ないし泥状下痢便を認め, うち8名は血便も認めた. 白血球数は正常ないし軽度増加, CRP強陽性を示し赤沈は充進した. また患者糞便より分離したS. typhimuriumを抗原として測定した凝集価の経日的変動では, 発症後2~3通間で最高凝集価を示し, 下痢症患児は160倍以上を示した.
疫学的ならびに細菌学的調査では, 医療従事者, 給食関係者, 出入商人などには菌陽性者は認めず, 患児の家族内調査で, 1下痢患児の母親が下痢の既往をもちS. typhimuriumの保菌者であったことが分かった. また環境汚染調査の結果, 便所のフラッシュバルブからS. typhimuriumが検出され, 同便所をこの母親が使用した事実も判明した. またその他の採取材料からはすべて菌陰性であった. 以上の成績より, 本事例は保菌者の母親によってもち込まれたS. typhimuriumによる下痢症の院内流行であったと推察された.
感染防止対策としては, 患児および保菌者の隔離と消毒, 滅菌の徹底, とくに一般患児と医療従事者の手洗いの励行と薬剤の除菌効果により, 以降新たな下痢症患者ならびに保菌者の発生はみなかった. また治療としてはCP, ABPC, KMなどによる化学療法では除菌効果がみられず, Fosfomycinを投与することにより全例除菌することができた.

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