感染症学雑誌
Online ISSN : 1884-569X
Print ISSN : 0387-5911
ISSN-L : 0387-5911
Pasteurella multocidaによる膿胸の1剖検例と文献的考察
鵜木 哲秀中村 功森 勉亀井 敏明国広 誠子上田 尚紀
著者情報
ジャーナル フリー

1984 年 58 巻 7 号 p. 703-708

詳細
抄録

家畜の出血性敗血症や肺炎の起炎菌として知られているPasteurella multocida (P.multocida) による人の感染症は近年かなり注目されているが本菌による呼吸器感染症は比較的まれで, そのなかでも膿胸は極めて少ない. 我々は英語文献上16例目, 本邦第1例と思われる本菌による膿胸例を経験したので文献的考察を加え報告する.症例: 78歳の男性, 農業発熱, 咳嗽, 喀痰, 左胸部痛をもって発症, 5日後に当科入院;左胸水貯溜と急性炎症反応が認められた.血性胸水からP.multocidaが純培養状に検出され, sulbenicillinつづいてcephaloridineの使用により自他覚的改善が認められた. 一方, 本患者は入院時に多発性骨髄腫IgG x型と診断されていたため, 膿胸の軽快を待って入院4週目よりcyclophosphamideの使用を開始したが, 入院第33病日に原因不明の急死をとげた. 剖検では骨髄, 脾に幼若な形質細胞の浸潤が認められたが, 他の実質臓器への浸潤は軽度であった.肺には慢性気管支炎の像が認められたが, 膿胸は胸膜の線維化を残して治癒していた. 本症例は多発性骨髄腫, 慢性気管支炎を基礎疾患として有し, 農業に従事していたことから, P.multocidaの経気道感染により発症した膿胸と考えられた.

著者関連情報
© 日本感染症学会
前の記事 次の記事
feedback
Top