感染症学雑誌
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Clostridium difficileの発育に関する基礎的検討
C. difficileの発芽増殖に対するpHの影響
川崎 賢二
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1988 年 62 巻 6 号 p. 598-607

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抄録

抗菌剤投与後に発生するClostridium difficileによる腸炎の発症機序を基礎的に解明する目的で, 本菌の増殖に関与する条件を検討した.
Bifidobacterum adotescentisと混合培養したC.difficileの増殖形細胞は, 単独培養時に比べ増殖は阻止されなかったが, 芽胞形成は著しい低下を示した.
一方, C.difficileの芽胞は, 単独培養では培養24時間後に発芽増殖したのに対し, B.adotescentisとの混合培養では培養48時間後でも発芽増殖しなかった.混合培養菌液とC.cifficile単独培養菌液の酸化還元電位とpHは, 12時間後に前者は一300mV, pH5.3であり, 単独時では-360mV, pH6.0であった.
BHI broth (pH7.41) に接種したC.difficileの芽胞は, 培養12時間後 (酸化還元電位,-230mV) から発芽増殖し, 24時間後に発育は最大に達した.BHIbrothの初期pHを酸性側 (6.45, 6.10) に調製し, 芽胞を接種すると発芽増殖は前者では培養36時間後, 後者は72時間後まで遅延し, さらにpH5.72に調製したBHIbrothでは, 芽胞からの発芽増殖は培養7日目でも認められなかった.
以上の結果は, 正常腸管内においては菌叢を構成する他の菌種が低級脂肪酸などを産生することにより腸管内環境pHが酸性側に維持され, このことがC.difficile芽胞の発芽増殖に対する抑制因子の一つとなっていることを示唆するものと考えられた.

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