感染症学雑誌
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HIV抗体陽性者の病態把握のためのHIV分離と臨床マーカーの有用性について
大竹 徹森 治代森本 素子上羽 昇國田 信治佐野 浩一中井 益代大久保 進安永 幸二郎永尾 暢夫平井 健策大久保 康人
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1990 年 64 巻 10 号 p. 1287-1294

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抄録

HIV感染者の発症予知のためのマーカーとしての有用性を検討するために, 末梢血単核球 (PBMC) からのHIV分離と各種臨床マーカーの検索を行った. 対象は18名のHIV抗体陽性者で, 全員男性であり1名は同性愛者, 1名は感染経路不明, 16名が血友病患者であった. 3名は当初からAIDSを発症しており, 1名は観察途中で無症状キャリアー (AC) からAIDSとなり, 残りの14名はACのままで推移した. AIDS発症者の100%, ACの47%から1回以上HIVが分離され, 有症者からはACからより短期間の培養で分離された. また分離例ではCD4リンパ球数あるいはCD4/CD8比が低い傾向が示された. AIDS患者由来のHIV株は総てMT-4細胞に感染性を有し, ACからAIDSを発症した1例では発症に先立つ9ヵ月前にMT-4細胞に感染性を持つようになった. その他のAC由来株ではMT-4細胞に感染性を持たなかった. これらのことから, AIDS発症には体内のHIV量あるいは増殖力の増大化とCD4細胞数低下が深い関連性を持つことが示唆された. HIV分離の成否や症状とIFA法およびPA法によるHIV抗体価との間には関連性は無かったが, HIV分離例や発症者ではHIVのコア抗原 (p24, p17) に対する抗体の低下が高率に認められた. 血漿中のHIVp24抗原は, ACからAIDSを発症した患者においてHIVの分離成功と並行して検出された.
これらの成績から, HIV感染者の発症の危険性をモニターするためにはCD4細胞数の低下, HIV分離の成功および分離に必要な培養期間の短縮, 分離されたHIVのMT-4細胞での増殖性獲得, 血中のp24抗原陽性および抗コア抗体の消失に注意を払う必要があると考えられた.

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