感染症学雑誌
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神奈川県内で集団発生した水系感染Cryptosporidium
黒木 俊郎渡辺 祐子浅井 良夫山井 志朗遠藤 卓郎宇仁 茂彦木俣 勲井関 基弘
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1996 年 70 巻 2 号 p. 132-140

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抄録

平成6年8月30日から9月10日にかけて神奈川県平塚市内の雑居ビルにおいて, 店舗の従業員と客の間でCryptosporidium症が集団で発生した.736人のビル関係者を対象にして実施された疫学調査により461人が発症したことが明らかになった.主訴は, 粘液性および水様性下痢 (96.7%), 腹痛 (61.6%), 発熱 (54.2%;<39.0℃: 84.1%, ≧39.0℃: 15.9%), 倦怠感 (37.1%), 嘔気 (32.8%), 頭痛 (29.3%) などであった.患者の発生状況からビル内の簡易専用水道水の関与が疑われ, 患者の便とともに水道水, 飲料水受水槽, 汚水槽, 雑排水槽の水等を検査した.検体からは数種の腸管病原細菌が検出されたが集団下痢の原因とは断定されず, 既知の腸管病原ウイルスは検出されなかった.一方, 25検体の患者便のうち12検体 (48.0%) からCryptosporidium parvumのオーシストが検出された.この結果を受けて行われた原虫検査によりビルの水道水, 受水槽水, 汚水槽水, 雑排水槽水等の水の検体すべてからもオーシストがみいだされた.本雑居ビルの上下水道施設では, 受水槽, 雑排水槽, 汚水槽および湧水槽が隣接して設置され, 穴によりそれぞれが通じていた.下痢症の集団発生時, 排水ポンプの故障によりオーシストを含んだ雑排水や汚水が受水槽に混入していたことが確認された.本例をみるまでもなく, 下痢症の集団発生に際して今後は原虫の1種であるCryptosporidiumが原因病原体となり得ることも念頭に置いて検査体制に万全を期する必要があろう.

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