感染症学雑誌
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海外旅行者下痢症の細菌学的研究
(6) 1994~1996年の関西空港における下痢原因菌検索成績
上田 泰史鈴木 則彦古川 徹也竹垣 友香子高橋 直樹宮城 和文野田 孝治廣瀬 英昭橋本 智宮本 彦四郎矢野 周作宮田 義人田口 真澄石橋 正憲本田 武司
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1999 年 73 巻 2 号 p. 110-121

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抄録

1994年9月4日の開港から1996年12月まで, 2年4カ月の調査期間における関西空港の検疫人員は11, 44a534名であり, 検疫時に下痢を申告したものは22, 187名であった。そのうち9, 299名について下痢原因菌の検索を行い, 以下の成績を得た.
1) 下痢原因菌が検出されたのは3,096名 (33.3%) であった.これらの症例から検出された病原菌はPlesiomonas shigelloidsが最も多く2,066名 (66.7%), 次いでAeromonas spp.484名 (156%), Vibrio parahaemolyticus358名 (11.6%), Shigella spp.291名 (9.4%), Salmonella spp.183名 (59%), Vibrio choleraenon-O1 121名 (39%) の順で検出された.下痢原因菌検出例のうち, この6種類の病原菌が検出されなかった症例はわずか2.8%であり, 上記の6種類が海外旅行者下痢症の主原因菌であると考えられた.なお, enterotoxigenic Escherichia coliについては検査対象としなかった.
2) 2種類以上の下痢原因菌が同時に検出された症例 (混合感染) が502例みられ, 下痢原因菌検出例の16.2%を占めた.
3) 1995年2月~3月に, インドネシア (バリ島) 旅行者に集中してコレラ患者 (13例) が発見されたその他は, 各菌種とも検出頻度に季節的な大きな偏りは認められなかった。
4) Vibrio spp.の推定感染地はアジア地域に限定され, Shigella spp., Salmonella spp.およびP.shigelloidesの感染地は広範囲にわたっていたが, Shigella spp. ではとくにインドおよびインドネシアに集中していた.
5)Shigella spp.のうちわけは, S.sonneiが最も多く, 次いでS. flexneri, S. boydii, S.dysmteriaeの順に検出された.また, インド・ネパール旅行者からS.boydii provisional serovar E16553が検出された.
6) Salmonella spp.の血清型では, S.Enteritidisが最も多く検出され, 49例 (25.7%) を占めていた.
7) 薬剤耐性株の頻度はShigella spp.89.2%, Salmonella spp.27.2%, V.choleraeO195.0%であった.
8) V.cholerae01はすべてEI Tor Ogawa型コレラ毒素産生株であった.
9) V.parahaemolyticusの血清型は03: K6が最多数を占めた.耐熱性溶血毒遺伝子 (tdh), 易熱性溶血毒遺伝子 (trh) 保有株がそれぞれ89.8%と14.6%に確認された.

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