感染症学雑誌
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散発下痢症患者由来大腸菌の腸管病原性大腸菌 (EPEC) eaeA遺伝子および腸管凝集性大腸菌 (EAggEC) aggR遺伝子保有状況とその病原性の評価
加藤 玲尾形 和恵山田 澄夫
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2002 年 76 巻 9 号 p. 721-729

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抄録

1998年から2000年の3年間に, 東京都多摩地区の9医療定点で感染性胃腸炎と診断された患者525名から分離・同定・保存した大腸菌について, 腸管病原性大腸菌 (enteropathogenic Escherichia coli, EPEC) のeaeA遺伝子と腸管凝集性大腸菌 (enteroaggRegative E. coli, EAggEC) のaggR遺伝子の保有をPCR法で検討した.eaeA遺伝子保有大腸菌はVTEC検出5例を含む23例 (4.4%) に認められ, VTEC検出例を除いた陽性例 (18例, 3.4%) はロタウイルス, カンピロバクター, アデノウイルス, サルモネラに次ぐ検出頻度であった.年齢別には1例を除き全て10歳以下で, うち過半数の9例は月齢24カ月以下の乳幼児からの検出例で占められた.一方, aggR遺伝子保有大腸菌は11例 (2.1%) 確認され, その年齢別検出状況は5カ月から33歳の範囲内であったが, 6例は24カ月未満の乳幼児であった.また, eaeA陽性者の4例, aggR陽性者の3例は混合感染であったが, 単独感染例の臨床症状は互いに差がなく, 1日あたり3~10行の水様性下痢を主徴とする比較的軽症の胃腸炎症状であった.
遺伝子保有大腸菌の大部分は市販大腸菌O血清に型別されず, eaeA保有株では1株がO55, aggR保有株では4株だけがO86とO111 (各1株) およびO126 (2株) に型別されたのみであった.また, 薬剤感受性試験でeaeA保有株の4株が耐性を示したのに対して, aggR保有株では1株を除き全て耐性株であり, その大部分がABPC耐性であった.これらの成績は, eaeAあるいはaggR遺伝子保有大腸菌が月齢24カ月以下の乳幼児下痢症においてロタウイルスとともに極めて重要な病原体であること, およびPCR法による遺伝子診断はEPECあるいはEAggECによる下痢症の診断や実態把握により有用であり, それに基づいた両菌群の血清型の再構築の必要性が示唆された.

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