2005 年 79 巻 5 号 p. 314-321
2003年11月28日から12月3日にかけて, 国内15都府県 (22自治体) からカンボジアへ渡航した団体旅行者78名中24名 (31%) が下痢・腹痛等の症状を呈した.各都府県で実施された患者便計20名の検査結果の集計では, 既知病原微生物の検出率は5~15%に制上まり, 原因は特定できなかった.岡山県と愛知県は下痢原性大腸菌の一つのカテゴリーである腸管凝集性大腸菌 (enteroaggregative Escherichia coli: EAggEC) による可能性を考えて, 患者8名 (岡山7, 愛知1) の大便より分離された大腸菌について, EAggECに関連する病原因子 (aggR及びastA遺伝子) をPCR法により調べた.更に凝集付着性をclump法とHEp-2細胞を用いて検査した.その結果, 3名由来の血清型OUT: H10の大腸菌がEAggECと同定され, その検出率38% (3/8) は最も高率であった.これらのEAggECはプラスミドプロファイル, PFGEパターン及び薬剤耐性パターン (ABPC, TC, NA, ST, TMP) も一致したことから, 患者3名は同一起源のEAggEC (OUT: H10) に感染していたことが明らかとなった.また, aggR遺伝子陽性の大腸菌が必ずしも細胞に凝集付着するものではなく, aggR保有株の50%, clump陽性株の100%が凝集付着した.EAggECの同定には, 簡易迅速なPCR法によるaggR遺伝子の検出とclump形成試験で段階的にスクリーニングした後に, HEp-2細胞への凝集付着性の確認を行うことが最も効率的であるとわかった.