抄録
肝切除後早期に胸膜播種をきたした肉腫様変化を伴った肝細胞癌の1例を報告する.症例は61歳,男性.検診の腹部超音波検査で肝腫瘤を指摘され,CT,MRIで,肝右葉の多発肝内転移を伴う肝細胞癌と診断した.門脈塞栓術後,開胸開腹下に肝拡大右葉切除術を行い,Stage IVaの中分化型肝細胞癌と診断された.術後,AFPは正常化し,PIVKA-IIも低下した.術後40日目に右胸水貯留を併発し,胸水中に異型細胞を認めた.胸腔鏡検査で不整なび慢性胸膜肥厚を認めた.病理組織検査で,Vimentin,EMA,Keratinが陽性の紡錘形細胞を胸膜に認めた.肝内にも肝細胞癌との移行像を伴う同様の紡錘型細胞を認め,肉腫様変化を伴った肝細胞癌と診断した.初回手術後56日目に癌死した.肉腫様変化を伴う肝細胞癌は,腫瘍マーカーが低下しても,播種性転移を含む早期再発の可能性を念頭に置いた厳重な経過観察が必要である.