E型急性肝炎の流行は須くHEV感染流行地域においてのみ観察可能な事象と認識され,日本を含む先進国からは流行的HEV感染に対する報告は皆無である.
HEV感染診断を支援する地域的net workである北海道E型肝炎研究会(道E研)は,2009年9月下旬から10月下旬にかけて札幌圏における急性E型肝炎孤発例の連続的発生という事態に遭遇した.これら11名の患者から得られたHEV株はいずれもgenotype 4に属したが,部分塩基配列をもとに作成した遺伝子系統樹で単独のクラスターを形成したため,本事例は同一株による小流行と判断された.これらHEV株は既報の"Sapporo strain"あるいは,北見・網走地域で急性肝炎の原因となった"Kitami/Abashiri strain"と近接していた.
前述した分子疫学的手法がHEV感染小流行の解明に有用であることが示された一方,11例に対する個別的調査を行うも本小流行に共通の感染源,感染契機を特定するには至らなかった.今後も"New Sapporo strain"に対する注意深い監視が必要と考えられた.